2022年1月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」
第14回 実況民

第14回「実況民」

十数年前、テレビばっか見ていた時期があった。住んでいたワンルームの部屋は、見ていようがいまいが常にテレビがついていた。ちょっとした外出時もつけっぱなし。寝る時やラジオを聴く時はつけっぱなしのテレビをミュートにする。天井に電灯がなく、液晶テレビは常夜灯のひとつだった。卓上ライトと、もうひとつの灯りとしてデスクトップPCが常にオンになっている。原稿中にテレビを見ながらよく2ちゃんねるの実況板を横目で眺めていた。習慣的に欠かさず観ていた番組は、フジテレビで夕方やっていた、ちょい古いドラマの再放送枠。『ランチの女王』とか『ナースのお仕事』とか、同じようなラインナップが繰り返し流されていた。知ってる内容のドラマ、実況スレの反応も変わらない。世界がループしているみたいだ。原稿を描きながら、「この生活が永久に続いていくのも悪くないな」と、不思議な安心感を覚えていた。他は、NHKで深夜不定期にやっていた『MUSIC BOX』が好きだった。60~90年代のヒット曲とともに当時の映像が淡々と流されるフィラー番組だ。仕事中のながら見に丁度良い。実況スレもノスタルジックな話題とまったりした空気で、心地が良かった。特に書き込んだりはしない。テレビと同じで、単にスレの流れを眺めているのが好きだった。
ある時、実写映画『デビルマン』が深夜放送された。『デビルマン』は、当時「糞映画」と揶揄される程評判の悪い作品だった。未見だった僕は、怖いもの見たさもあり、実況スレも含め密かに楽しみにしていた。しかし実際放送が始まると、それは単に退屈な映画だった。ネタ的に笑えそうな場面があっても、そういう気分にはなれない。勝手な印象だが、作り手から作品が愛されていない感じがした。観ていると悲しくなる。実況スレも最初こそは「キター」と盛り上がっていたものの、徐々に書き込みが減っていく。いたたまれない時間だった。僕は気まずさに耐えられずスレを閉じた。出来の悪い作品をネタとしてあえて観るという行為自体が、下品で恥ずかしいことに思えた。うっすら罪悪感すら覚え、しばらく実況板からも離れてしまった。
ちなみに、『デビルマン』と並んでダメな映画として挙げられがちな実写版『キャシャーン』は、個人的にはかなり好きだ。粗は目立つけど、監督から全力で愛されている作品だと伝わってくる。観る度、監督の自作に対する想いの強さに当てられてぐったりする。愛を感じられる作品は、内容がちぐはぐでも心に響く。今思えば、もしかしたら『デビルマン』も作り手からは愛されていたのかもしれない。僕には感じ取れなかっただけで。かと言って、もう一度観る気にはなれない。出来が悪いことは笑えるけど、愛されていないことは笑えない。ただ悲しいだけだ。
あれから随分経つ。いつのまにか実況板を見なくなっていた。ツイッターで実況用ハッシュタグを追ったりもしない。そもそもテレビをあまり見ない。ライフスタイルが変わってしまったのだ。見る時はリアルタイムではなく、TVerのアプリを立ち上げる。
『MUSIC BOX』については、今でもたまに思い出す。ノスタルジーに浸った深夜の甘い時間そのものを、ノスタルジックに思い返すのだ。

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