2021年10月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」
第11回 眠くなる映画

第11回「眠くなる映画」

映画を観ながらの居眠りは気持ちがいい。すでに観たことある映画は特にいい。気持ちよく居眠りできるベストな映画を選んでいる時間は格別だ。選択中に寝落ちしてしまった時の不完全燃焼感も悪くない。半醒半睡で夢と映画の区別がつかなくなったあの瞬間、多幸感しかない。かと言って、眠くなる映画がいいというわけでもない。作品の魅力と眠気のせめぎ合いが大事だからだ。眠くなる映画は、気持ちがいいどころか最悪な状況を引き起こす場合もある。
ずいぶん前に『トロン:レガシー』というSF映画を劇場で観た。コンピューターの世界に入り込んでアレコレする話なのだけど、原稿明けだったせいか主人公が現実世界にいる段階で目がトロンとしてきて、気がつくとエンドロールになっていた。照明がつき場内が明るくなる。ひとつ前の席にいた青年がこっちをじっと睨んでいた。やばい人かと思いきや、どうやら居眠りしながらイスを何度も蹴ってしまっていたらしい。僕がやばい人だった。平身低頭謝るも、自覚のなさが態度に出ていたのだろう、憤懣やるかたない様子で青年はその場を去っていった。自己嫌悪にヘコみつつ、時間差で自分も出口に向かう。人の流れに押されているうちに、いつの間にかエスカレーターでさっきの青年の目の前に立ってしまっていた。振り向いて「先程はすみません、後から出たのに前に並んでいて重ね重ねすみません」みたいな対応は、もちろんできない。うつむいて気づかないふりをしたまま、刺すような視線を背中に受け続ける地獄の時間を過ごした。以来、外で映画を見る時は眠らないよう細心の注意を払っている。
事件から一年後くらいの話だ。当時お付き合いしていた女性がいて、その日二人で街をぶらついていると彼女に急な仕事の用事が入ってしまった。じゃあ終わるまで僕はそこのネカフェで時間潰すよと言い、ビルの前で一旦別れることになった。直後、店の入口で僕は自分の勘違いに気づく。そこはネカフェではなく個室ビデオだったのだ。利用経験がないからシステムは詳しく知らない。単に時間を潰すだけだ、エロビデオではなく一般作品を観て過ごそう、彼女の用事が終わり次第別の場所で待ち合わせすればいい。決心し、カジュアルな気持ちで入店する。アダルト以外のラインナップが思いのほか貧弱で、「コレはデートの合間に入る店ではない」といきなり気づかされる。動揺しつつも、映画のDVDを一枚だけ持って指定された部屋へと向かった。選んだ作品は、以前上映中に寝てしまった『トロン:レガシー』だ。
リベンジとばかりに再生すると、不思議なことが起こった。なぜだか目がトロンとして、そのままウトウトと眠ってしまったのだ。『トロン:レガシー』は、体調に関わらず観ると目がトロンとして眠くなる映画だったらしい。目覚めるとすでに映画は終わっていた。携帯には無数の着歴。慌ててリダイヤルするも出てもらえない。「ひとりでタクシーで帰る」といった旨のショートメールが残されていた。タクシーを拾い追いかけ、平身低頭謝る。彼女によると、どうやら個室ビデオまで迎えに来て「連れの男性が寝てしまっているだろうから、呼び出して欲しい」みたいな問答を店員としていたらしい。大変な事態である。
あれから十年近く経つ。いまだに『トロン:レガシー』を全編ちゃんと観てはいない。観ても寝てしまうし、起きたら誰かを怒らせているからだ。

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