2021年1月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」
第1回 酔拳2

第1回「酔拳2」

コロナの影響で公開される映画が減っている中、この連載も大きく内容を変えることにした。とりあえず今回は、新作紹介をやめて映画にまつわる思い出話をエッセイ的に書いていこうと思う。映画の話ではなく、主に僕自身の話だ。
高校二年の大晦日、同級生の友人二人と一緒に映画『酔拳2』を観に行った。教室では仲良かったけど、学校外で三人が会うのは初めてだったかもしれない。時間をちゃんと調べてなかったせいで、最終上映の回には間に合わなかった。僕らは映画を諦め、ゲーセンをハシゴしたり街をぶらついたりして夜を過ごした。ダラダラ遊んでるうちに、気がつくと最終バスが終わっている。不思議と誰も帰ろうと言わない。なんとなく駅へ向かい、そのままコンコースのベンチで夜を明かす流れになった。そんな風に外泊を決めるなんて初めてだったし、駅に泊まるのも初めてだった。ドキドキしていた。コンコースには僕ら以外誰もいない。缶コーヒーで暖まりながら、キン肉マンの技がどうとかどうでもいい話で盛り上がる。いつものくだらない会話が、なぜだか重要なやり取りのように思えた。「海岸で発見された赤ん坊の死体が消えてなくなってしまった」という、朝に見た地元ニュースの話題から、消えた死体を探しに海岸へ行く流れになった。本当は初日の出を見に海へ行くだけなのだが、そんなベタな行動が恥ずかしくて、言い訳として死体のニュースを利用したのだ。駅を出たのは午前四時ごろだった。スタンドバイミーを口ずさみながら、真っ暗な道を延々と歩く。遠くに除夜の鐘が聞こえた。死体のことはすぐに忘れていた。海が近づき、まばらに人が増えてくる。目的地の中田島海岸は、鳥取砂丘に次ぐ広さの砂浜を持っている。砂丘を登ると、黒い水平線が目に入る。風が強く冷たい。僕らはご来光を待った。やがて現れた朝日は、眩しく美しかった。僕は、漫画なんてロクに描いたこともないのに、将来漫画家になるとひそかに決意した。二人には言わなかった。漫画なんてロクに描いたこともないからだ。海岸から戻る途中、振り返ると砂丘の稜線に無数の黒い人影が並んでいるのが見えた。自分たちと同じく海岸から戻る人の群れだ。ゴオゴオ鳴る風の中、何百もの人影がゆっくりと同じ方向に進んでいく。文明を失った人類が砂漠をさまよっているようだった。それからバスで駅に戻り、マクドナルドで時間をつぶした。言葉にこそ出さないが、特別な夜だったことを確認し合うような眼を、お互いがしていた。そんな気がした。映画館が開く時刻になり、僕らは最前列で『酔拳2』を観た。
それは、ジャッキー・チェンの最高傑作だった。

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