2016年9月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第103回 ボーダーライン

第103回「ボーダーライン」

自分がメキシコ麻薬カルテルの恐ろしさを意識したきっかけは、数年前ニュースサイトで目にした凄惨な処刑画像だった。何が起こっているんだと、色々検索してみたものの、当時は今ひとつピンとこなかった。同じ頃アメリカで『ブレイキング・バッド』が始まり、以降メキシコ麻薬カルテルを扱った映画やドラマが幾つも作られ、今はフォローしきれないくらいに増えている。

本作は、女性FBI捜査官ケイトがアメリカとメキシコの国境を跨いで極秘任務を遂行する、サスペンスドラマだ。監督は鬼才ドゥニ・ビルヌーヴ。強い正義感と使命感を持つケイトを通して、「正しさ」が機能しないメキシコの深刻な現状が描かれる。
印象的だったのは、ケイトの参加する特殊部隊が、彼女に何の説明もないまま数台の車に分乗し、メキシコのフアレス市内へと向かう場面だ。車窓から目に飛び込んでくるのは、見せしめとして高架下に吊るされた幾つもの死体。街の風景として当たり前のように晒されていて、車はすぐ横を普通に通り過ぎる。まるでライド式のお化け屋敷のようだけど、それがフィクションとして誇張された表現でないことを、ニュース等で我々はよく知っている。路上で始まる銃撃戦。麻薬戦争の現実は悲惨で、難解で、全貌がさっぱり見えない。翻弄されるケイト。違法捜査は強いられるし、協力関係にあるはずのメキシコ警察は買収されまくりで信用できず、デル・トロ演じるパートナーのコロンビア人も正体不明。
「その善悪に境界はあるのか」この映画のメインテーマだ。違法を黙認しなければ、より深い場所までたどり着けないし、敵の敵なら犯罪者とも手を組む。何でもありの世界に投げ込まれ、ケイトの信念は徐々に崩されていく。
監督曰く、「『ボーダーライン』は幻想の話でもある。つまり北アメリカは世界で最も過激な暴力をはらむ問題を効率的に即座に解決することが出来るはずだという幻想だ」
現実はあまりにも複雑で、誰にも解決できない。

hitokoma100

●監督・脚本:ドゥニ・ビルヌーヴ
●出演:エミリー・ブラント /ベニチオ・デル・トロ /ジョシュ・ブローリン /ヴィクター・ガーバー /ジョン・バーンサル 他
●上映時間:121分
●配給:KADOKAWA

【イントロダクション】
FBIで誘拐事件を担当する捜査官ケイトは、秘密裏に編成された特殊チームにスカウトされる。謎のコロンビア人とともにアメリカとメキシコの国境付近を拠点とする麻薬組織撲滅の極秘作戦に参加する中、人の命が軽んじられ暴力が日常化されている現場に直面し、徐々にケイトの中で善と悪の境界が揺らいでいく。麻薬戦争の得体の知れない闇の奥深くに身を投じ、想像を絶する真実を目の当たりにする――。

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