2009年9月3日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第19回スラムドッグ$ミリオネア

第19回「スラムドッグ$ミリオネア」

 エネルギーに満ち溢れた作品だった。クイズ「ミリオネア」で最終問題まで勝ち上がった青年が、不正を疑われ、自身の壮絶な半生と、その節目節目に偶然問題のヒントがあった事を語る。物語の骨子はシンプルだが、「クイズで勝ち進むシーン」「不正を疑われ追求されるシーン」「語られる半生」、三つの場面が平行して進んで行き、作品に絶妙なダイナミズムを与えている。

 主人公ジャマールの少年時代はとにかく逃げ回っている。警察から、反イスラムの暴徒から、浮浪児を集めて物乞いをさせる犯罪組織から。スラムに生きる子供にとって、逃げる事が唯一のサバイバル術である事を、猥雑なムンバイの街を背景にスピード感たっぷりに描かれている。
 ジャマールがクイズに答えていくスタジオの場面は、回想シーンとは対照的だ。きらびやかなセットの中で、絶対強者である司会者と対峙しながら、一問一問じっくりと正解を出し勝ち上がっていく。華やかな「攻め」の局面と、過去の泥臭い「逃げ」の局面。コントラストを感じさせる演出が心地よい。クイズに正解していく事は分かってるのだが、間に「不正を疑われ追及されるシーン」を挟み込むことで、緊張感を損なわせない。計算され尽くした構成に唸らされる。
 この作品がエンタメとして素晴らしいのは、メインになる物語がジャマールのサクセスストーリーだけでは無い所にある。子供時代共に過ごした少女ラティカとのロマンスだ。連絡が取れなくなったラティカが番組を見てるだろうから、という理由でジャマールはミリオネアに出る。映画のクライマックスは、実は優勝する直前にあるのだが、感動すると同時に清々しく「そうなるのか!やられた!」と思わされた。
 映画の冒頭に「スラム出身の無学な青年がなぜ全問正解できたのか?」という四択クイズが出され、バレバレなのだが「D:It is written(運命だった)」と答えがラストに明かされる。ご都合主義的な物語ではあったものの、「It is written」が「そういう筋書きのフィクションだから」とも言っているようで、強引に納得させられてしまった。インド映画をリスペクトしたエンディングも含め、これ程までに完成度の高いエンターテインメント作品は、久しぶりに観た気がする。

監督●ダニー・ボイル 脚本●サイモン・ビューフォイ
出演●デーヴ・パテル、アニル・カプール、イルファハーン・カーン、マドゥル・ミッタル、フリーダ・ピント
上映時間●120分 配給●ギャガ・コミュニケーションズ

【イントロダクション】
インド・ムンバイの少年ジャマールは、警察に逮捕された。理由は、「クイズ$ミリオネア」に出演し、あと1問正解を出せば番組史上最高額の賞金を獲得できるところまで勝ち抜いたからだ。いまだかつて医者も弁護士も、ここまで勝ち残ったことはない。しかもジャマールは、学校にも行ったことがないスラム育ちの孤児。一体彼はどうやって全ての答えを知り得たのか? そして彼がクイズに参加した本当の「目的」とは?
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