2016年6月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」祝100回 オデッセイ

祝100回「オデッセイ」

火星にひとり取り残された宇宙飛行士が、不毛の惑星でサバイバルする。原作はウェブで発表されていたSF小説。人気のあまり書籍化され、瞬く間に巨匠リドリー・スコット監督の手で映像化されてしまったという製作過程がすでに奇跡のような物語だ。

たった一人過酷な環境で生き抜く話というと、深刻で重苦しい映画をイメージしそうだけど、本作はコメディよりのエンタメ作品だ。主人公ワトニーは、どんな絶望的な状況でも希望を失わず、ジョークをかましながら次々と困難を克服していく。とにかく観ていて気持ちが良い。かと言ってご都合主義ではなく、限られた条件下でどうやって水や食料を確保していくのか、具体的に描かれていく。燃料から水素を遊離させ燃焼によって水を作り出したり、ドーム状の居住施設内に土を敷き糞尿を混ぜ水を与えてジャガイモを育てたり、観ていて感心させられっぱなしだ。水素を爆発させてしまう等失敗も繰り返すが、その度に彼は立ち上がる。
物語がドラマチックであるのにも関わらず、ワトニーの生い立ちや家族、背景についてこの映画は一切描かない。そこは本作の特徴のひとつでもある。あらゆる人が感情移入させられる匿名的なキャラクターを設定し、ひとつずつミッションをこなしていく。原作読んだ時も思ったのだけど、「ゲームっぽい」というのが僕の印象だ。そこが現代的で新鮮に感じた。
劇中流れる音楽も特徴的だ。船長が残していった趣味の音楽データが全部70年代ディスコミュージックで、ワトニーはセンスの合わなさにブーブー言いながらもBGMにして作業をする。後半、地球で頑張るNASAスタッフと救助に戻る宇宙船のクルー達が協力し合うシーンで流れるデビッド・ボウイ「スターマン」は激アツだった。
原作ファンとしては、「ここカットするのか」とか言いたくなる部分もあるのだけど、オリジナル要素も適切で、誰にでも薦められる軽やかな人間賛歌映画に仕上がっていた。

hitokoma97

●監督:リドリー・スコット
●出演:マット・デイモン/ジェシカ・チャステイン/クリステン・ウィグ/ジェフ・ダニエルズ/マイケル・ペーニャ
●上映時間:142分
●配給:20世紀フォックス映画

【イントロダクション】
火星での有人探査の最中に嵐に巻き込まれてしまった、宇宙飛行士マーク・ワトニー。仲間たちはワトニーが死亡したと思い火星を去るが、彼は奇跡的に生きていた。空気も少なく水も通信手段もない。わずかな食料しかない危機的状況の中でも地球帰還への希望をもってあらゆる手段を尽くし生き延びようとする――。

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