2016年5月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第99回 白鯨との闘い

第99回「白鯨との闘い」

「名著『白鯨』の元になった実話を映画化!」と聞き、「あの小説、実話を元にしてたのか」と驚かされたのだけど、実際自分は未読だったりする。正確に言うと、手に取って序盤で挫折してしまった。分厚い『白鯨』を今更読むのは気が進まないが、別角度でアプローチできるいい機会だと思い、試写に臨むことにした。

捕鯨が一大産業として盛んだった一九世紀。主人公の一等航海士オーウェンは、世襲で船長になった経験の浅いジョージと、いがみ合いながら太平洋上で鯨を追う。船長のミスで嵐に巻き込まれたのに、適切な判断をしたオーウェンをクビにしようとしたり、ストレスの溜まる航海だ。「船長、痛い目に遭え」などと思いながら観ていると、突如巨大な白鯨が現れる。無謀にモリを打ち込んだオーウェンのせいで白鯨が暴れ、船は壊され、二人の確執どころではない状況になってしまう。
『白鯨との闘い』というタイトルから、海の男達が鯨に立ち向かい勝利する熱い物語かと思ったら全然違った。鯨がデカすぎるし強すぎる。怪物というより、天罰を与える神のよう。鯨と闘うシーンは派手で見応えがあるのだけど、分量は少なめだ。中盤以降は、遭難した船員たちが衰弱しながら大海原を漂う絶望的な時間がひたすら続く。そこにはプライドの高い船長も、頼もしい航海士もいない。ガリガリにやつれ、誰が誰だか見分けもつかない、ボロボロに弱った人間がいるだけだ。
ネタバレを避けるため細かく書けないが、本作は鯨と闘う映画と言うより、自分の中の人間性と闘う映画であり、最終的に鯨という超越的な存在に許しをもらう映画だ。生き残ったものは、必ずしも勝者ではない。数十年経っても苦しみ続けていて、それを取材にやってきた小説家に訴えるのだ。
小説家は、後にその話を元に『白鯨』を書き上げる。そしてラスト、捕鯨時代の終焉を告げる重要なセリフで、物語は幕を閉じる。ひとつの時代を象徴する事件を目撃するような映画だった。

hitokoma96

●監督:ロン・ハワード ●キャスト:クリス・ヘムズワースオーウェン・チェイス / ベンジャミン・ウォーカー / キリアン・マーフィ / ベン・ウィショーメルヴィル / ブレンダン・グリーソン

【イントロダクション】
1819年 一等航海士オーウェンは、妻とまだ見ぬ子に「必ず帰る」と誓い21人の仲間たちと捕鯨船エセックス号に乗り太平洋を目指した。しかし、彼らを待ち受けていたのは巨大な白鯨。死闘の末、船を大破された彼らにさらなる試練が立ちはだかる。生き延びるために、男たちが下した“究極の決断”とは――。

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