2009年8月6日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第15回ワールド・オブ・ライズ

第15回「ワールド・オブ・ライズ」

 「ヒ、ヒゲが…様になってる!」
 映画が始まって、まずディカプリオの顔つきに驚く。
 彼が、子供が付けヒゲしたような奇妙な容貌をウダウダと続けている状況について、僕はここ数年釈然としないでいた。「タイタニック」以降ついてしまった優男イメージを払拭する為の「ヒゲ」だったのかも知れないが、結果的に「似合わないヒゲを生やした童顔男」のイメージで、僕の中では完全に定着してしまっていたのだ。
 しかし、今作「ワールド・オブ・ライズ」のディカプリオは、一瞬誰だかわからない位ステキヒゲ男になっていて、舞台である中東にも違和感無く馴染んで見えた。単に観る側の僕自身が、彼のヒゲ面に慣れてしまっただけなのかもしれないけど、だとしてもなかなか出来る事ではない。受けないギャグを受けるまで言い続けるようなものだ。ヒゲがしっくりきたせいか、役者としての力量も格段に上がっているように見えて、これでもかと言う位ディカプリオの勇姿を堪能できた。ラッセル・クロウも役作りの為に2
8キロ増量して挑んだそうだが、活躍の場が少なく、完全にディカプリオの映画になっている。
 内容を一言で言うと、「現在の中東はこんなにも混沌としている!」という現状報告映画だ。CIAの上司や他国の諜報部やテロ組織。何が事実かわからない情報戦の渦中で悪戦苦闘するディカプリオ。常に「混沌とした状況」を演出する事に主眼を置いて、脚本が書かれているように感じた。「アメリカの正義」といった大義すら怪しく、主人公のモチベーションも不安定で、混沌ぶりに拍車をかける。現代をサヴァイヴする我々に対して、「これを信じろ」という答えを出さない、真面目でドライな作品になっている。ただ、ドライ過ぎて少し物足りなくも感じた。似た関係性の映画で、監督の実弟トニー・スコットが撮った、捕虜になったCIA工作員の部下(ブラッド・ピット)を上司(ロバート・レッドフォード)が情報局を欺いて救出する傑作「スパイ・ゲーム」を思い出す。そっちの方が個人的には好きなんだけど、今の世界情勢ではこういう熱いスパイドラマは空々しく見えてしまうのかもしれない。
 スパイ物は時代を反映していて面白い。我々は今、ディカプリオにヒゲが似合う時代を生きている。

監督●リドリー・スコット 脚本●ウィリアム・モナハン
出演●レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ、マーク・ストロングほか
上映時間●128分 配給●ワーナー・ブラザーズ映画
【イントロダクション】
人命よりも情報が重んじられる世界で、様々な作戦を遂行するべく世界を駆け回って活動する、CIAの敏腕工作員ロジャー・フェリス。彼の命運は、現場から離れた安全な場所からノート型パソコンを通して作戦を展開させるベテラン局員、ホフマンが左右する。そんな中、中東のテロ組織のリーダーを追うフェリスは、対象に近づくほど、自分を救うはずの信頼が彼の命を危険にさらすと気づいていく…。

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