2009年7月30日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第14回バンク・ジョブ

第14回「バンク・ジョブ」

 この映画は、1971年にイギリスで実際にあった銀行強盗事件が元になっている。「実話」というのが最大の売りなんだが、どこまで本当なのか鑑賞後調べたくなるくらい衝撃的なストーリーだった。簡単に解説すると、犯人たちが貸し金庫内から盗み出した金品の中に、エセ左翼活動家が政府を脅すために隠し持っていたマーガレット王妃のスキャンダル写真が含まれていて、「実は強奪事件は、MI5(日本で言う公安)がその写真を回収するために画策したものだった!」という陰謀渦巻く内容だ。実際、当時連日トップニュースで報じられていた程の強奪事件だったのに、突如報道規制がしかれ「なかった事」にされてしまったらしい。
 真相はともかく、映画自体は素晴らしい出来だった。スタイリッシュな映像、スリリングな脚本、魅力的な登場人物達、エンターテインメント作品として完璧な仕上がりになっていて、すっきりした気分で試写室を後にする事が出来た。紋切り型の表現でしか賞賛出来てないんだけど、特にビッグスターが出てる訳でも無く、目新しい映像表現がある訳でもない本作の、どこが特筆すべき点なのかと言うと、それは恐らく「バランスの取り方の巧みさ」だと思う。
 映画全体を通して、各キャラクター各シークエンスは絶妙なバランスで構成されている。それらは、ハリウッド大作でよく見られる、キャラ立てまくり緩急付けまくりの派手派手演出ジェットコースター構成とは真逆にある、飽くまで「抑えて抑えて」の演出で美しく調整されたバランスだ。各キャラは強く印象に残るほど突飛な個性を付けられて無いし、物語もサービス過剰な寄り道をしない。強盗団、MI5、マフィア、警察、それぞれの思惑は交錯するが、複雑になり過ぎず適度に知性を刺激させられる程度だ。全ての面でやり過ぎないようにしながら、華麗に全体のバランスが取られているように感じた。
 上映中観客は、乱雑に波打つ事の無い、計算されつくした静かで確かな感情曲線を描かされる。例えるなら、水の注がれたグラスをこぼさないように早歩きでゴールに運んでいく緊張感と、ゴールでその水を一気に飲み干す爽快感。芸術というより、職人の技術を見せられたような感動とカタルシスのある佳作だ。

監督●ロジャー・ドナルドソン
出演●ジェイソン・ステイサム、サフロン・バロウズ、スティーブン・キャンベル・ムーアほか
上映時間●1時間50分 配給●ムービーアイ
【イントロダクション】
1971年ロンドン、英国全土を揺るがす一大事件が発生した。ベイカー・ストリートにある銀行の地下に強盗団が侵入、貸金庫内の数百万ポンドにも及ぶ現金と宝石類を強奪して行方をくらませたのだ。だが事件の報道は突如打ち切られた。それは英国政府からのD通告(国防機密報道禁止令)によるもので、そこには報じてはならない秘密、王室スキャンダルが隠されていた…。

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