2015年9月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第91回 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

第91回「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」

落ち目のハリウッド俳優がブロードウェイの舞台に再起を賭ける、その公演初日までの数日を、他に類を見ないカメラワークと技巧的な編集を駆使し、圧倒的な臨場感で描く。

各賞を総なめしている話題作だけに、色んな角度から語りたくなる濃厚な映画なのだけど、最も特徴的なのは、やはり「最初から最後までワンカットで撮られているように見える」撮影、編集技術だ。舞台となる劇場の、内部と周辺を切れ目なくカメラが行き来し、人々の動きが感覚的に伝わってくる。蟻塚に超小型カメラを侵入させて延々アリの生態を観察する研究者、みたいな視点でブロードウェイの内幕を楽しめる。本作はブラックコメディだ。主人公リーガンは様々な不運に見舞われ、その全てを神様のような立場で体感できる。人間の滑稽さをより深い部分で感じ取るような、斬新な映画体験を味わえた。
キャスティングは、劇中でヒーロー映画『バードマン』を主演した一発屋的な主人公に、かつて『バットマン』を演じたマイケル・キートン。他も皆素晴らしいのだけど、個人的には、天才肌の舞台役者マイク役のエドワード・ノートンが、キレキレで最高だった。セリフを自由に変えまくったり、プレビュー公演で脚本無視して暴れ回ったり、勝手に日焼けマシンを買って楽屋に置いたり、裸でウロウロしたり、やりたい放題の役を、主役を食う勢いで快演している。
音楽も印象的だった。リーガンの強い不安を表すようなクールなドラムソロが、冒頭からラストまで、所々に刻まれる。
役者としては評価されていない、娘は元麻薬中毒患者で不安定、財産もほとんど使い果たし、どん底のリーガン。追い詰められ現実と妄想が入り乱れる中、それでも人生を変えるんだと、ヤケクソに近い吹っ切れ方で舞台初日に挑む彼の姿は、滑稽でもあり、崇高にも見える。
混沌としていて、それでいて計算され尽くしている、すごい映画だった。

hitokoma88

●監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ ●出演:マイケル・キートン/ザック・ガリフィナーキス/エドワード・ノートン/アンドレア・ライズブロー/エイミー・ライアン/エマ・ストーン/ナオミ・ワッツ ●上映時間:120分 ●配給:20世紀フォックス映画 

【イントロダクション】
かつてスーパーヒーロー映画「バードマン」で世界的な人気を博しながらも、現在は失意の底にいる俳優リーガン・トムソン。再起を決意しレイモンド・カーヴァーの「愛について語るときに我々の語ること」を自ら脚色、演出も兼ねてブロードウェイの舞台に立とうとしていた。ところが代役として現れた実力派俳優マイク・シャイナーの才能に脅かされ、アシスタントにつけた娘のサムとは溝が深まるばかり。しかも決別したはずの“バードマン”が現れ彼を責め立てる。果たしてリーガンは再び成功を手にし家族との絆を取り戻せるのか?

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