2015年7月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第89回 フォックスキャッチャー 

第89回「フォックスキャッチャー」

実話を基にした作品を得意とするベネット・ミラー監督の新作。今作は、デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンがレスリングの金メダリストを射殺したという、実際の事件を映画化した心理ドラマだ。見出し的にはキャッチーで、エンタメ感溢れる退屈させないサスペンスと思いきや、どちらかと言うと、同監督の前々作「カポーティ」に近い、静謐で淡々とした作品に仕上がっていた。「サイコパスの御曹司による殺人事件」という主題と、「オリンピックで金メダルを目指すレスリングチーム」というタフで汗臭そうな題材との組み合わせが新鮮で、「事実は小説よりも奇なり」と思わずにいられない話だった。

重々しい陰鬱な雰囲気を描き出す映像のセンスは、カンヌで監督賞を受賞しただけあって素晴らしい。静かだけど鬼気迫る役者の演技も見事だ。特にジョン役のスティーヴ・カレルは、狂気のはらみ方が尋常でなく、「『40歳の童貞男』の人だよね…?」と何度も確認したくなる怪演っぷりだった。
自身の欠落感を擬似父性の獲得で埋めようとする御曹司の病みっぷりに、目が離せない。「私は周囲から『ゴールデンイーグル』と呼ばれている」と言い出したり、レスリング大会を開き優勝して(させてもらって)トロフィーを部屋に並べたり、自分のドキュメンタリー映画を作らせ素晴らしい指導者だと讃えさせたり、書き出すとコメディとしか思えないが、シリアスな演技と重苦しい映像で見ると、その痛々しさに悲しみしか感じない。
歪んだ見方かもしれないが、本作は「同性愛的雰囲気」を匂わせているようにも解釈できる。そんな意図はないのかもしれないが、実際モデルになったレスリング選手の一人はその件で監督を非難している。しかし、そういったミステリアスさが、この映画をより深く怪しいものに思わせてくれていて、個人的には楽しめた。
全体の印象としては、批評家受けするタイプの映画で、世間的には退屈する観客もいるかもしれない。

hitokoma86

●監督:ベネット・ミラー ●出演:スティーヴ・カレル/チャニング・テイタム/マーク・ラファロ/シエナ・ミラー ●上映時間:135分 ●配給:ロングライド 

【イントロダクション】
この世にも奇妙な実話は、1984年のロサンゼルス・オリンピックで金メダルに輝いたレスリング選手、マーク・シュルツに届いた突然のオファーから始まる。有名な大財閥デュポン家の御曹司ジョン・デュポンが、自ら率いるレスリング・チーム“フォックスキャッチャー”にマークを誘い、ソウル・オリンピックでの世界制覇をめざそうと持ちかけてきたのだ。その夢のような話に飛びついたマークは破格の年俸で契約を結び、デュポンがペンシルベニア州の広大な所有地に建造した最先端の施設でトレーニングを開始する。しかしデュポンの度重なる突飛な言動、マークの精神的な混乱がエスカレートするにつれ、ふたりの主従関係はじわじわと崩壊。取り返しのつかない悲劇へと突き進んでいくのだった……。

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