2009年5月28日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第5回 アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生

第5回「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」

 この映画は、アニー・リーボヴィッツという女流写真家の人生を追ったドキュメンタリー作品だ。自分は映画の本質は演出だと思っている人間なので、ドキュメンタリーを映画として語るのは苦手だ。演出について敢えて言うなら、本作は彼女の人生を冷静に淡々と時系列で追ったというより、断片を感覚的に繋げて一つにまとめたという印象が強い。鑑賞後、走馬灯を見るようにアニー・リーボヴィッツの仕事を追体験した気分になった。彼女は自分とは真逆のタイプの人間なので、それが新鮮に楽しめた。
 アニーやアニーの関係者へのインタビューが続く中、彼女の撮った作品が次から次へとフラッシュバックのように映し出される。それがこの映画の基本構成だ。どの写真も印象的であるのは当然なのだが、インタビュー中に語られる言葉もまたフックのある断片として後に残る。
 「大切な人を二人失い、三人を授かった。それが人生」「車の中で育てば芸術家にもなる。車窓というフレームから世界を見てるんだもの」「移動が好きなの。次の場所に移動していれば満足よ」「空気のような存在になれば自由に写真が撮れる」「彼の骨を撮りたかった」「彼女は、母なる地獄」
 映像や言葉も、写真のように断片としてピックアップすると、表現としての強度が強まったり弱まったりする。目まぐるしくスクリーンに現れる無数の写真を見ながら、瞬間を捉える表現について、写真家という仕事について、ひいては自分自身の仕事についてまでも、色々と考えさせられた。
 彼女はその時々の有名人を被写体に、インパクトのある写真を撮り続け成功する。彼女の捉えた「瞬間」はカメラのシャッター幕が開く露光の瞬間ではなく、時代の瞬間そのものだ。
 「もし自分が有名人になって『いいとも』のテレフォンショッキングに呼ばれたら、誰を紹介しよう…」とか「『食わず嫌い王』に出たら、どの食材を指定しよう…」とか妄想する事があるけど、アメリカ人は「アニーに撮られるとしたら、どんな写真になるんだろう」等と思い描いたりするのかもしれない。
 深い思索を促される一方で、そんな事も考えさせられるポップさも併せ持った映画だった。

「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」
監督●バーバラ・リーボヴィッツ
出演●オノ・ヨーコ、デミ・ムーア、ミック・ジャガー、キース・リチャーズほか
上映時間●83分 配給●ギャガ・コミュニケーションズ
【イントロダクション】
世界的な活躍を続ける写真家アニー・リーボヴィッツ。暗殺の数時間前、裸でオノ・ヨーコに寄り添うジョン・レノン。妊娠中に雑誌の表紙をヌードで飾ったデミ・ムーア。ミュージシャン、映画スター、政治家、ダンサー、スポーツ選たちが彼女の前で心を開き、思いもよらぬ表情を見せる。華々しいキャリアを持つ彼女の人生と原動力を、セレブリティ100人の証言や、撮影裏話を基に描き出す。

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