2014年10月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第81回 ノア 約束の舟

第81回「ノア 約束の舟」

「π」「レスラー」「ブラック・スワン」。ダーレン・アロノフスキーは、閉じた世界で狂気に飲み込まれていく人間の話ばかりを撮る、偏執的鬼才監督だ。”ノアの箱舟”を題材にすると聞いた時、今までのイメージに全く無いため、「おいおい大丈夫か?」と僕は勝手に不安になっていた。そして、「映画で改めて観なくても、ノアの箱舟は何となく知ってる気がするし、別の監督だったら観なかったな…」程度の気持ちで試写に臨んだ。

結果的に言うと、思っていた以上に当たりだった。箱舟を家族で建造する前半のくだりに関しては、物語的に割と普通で想像通りだ。映像的には、鳥や動物が大量に集まってくる描写が、豪快で面白い。そして訪れる大洪水。大スペクタクルで楽しいのだけど、映画の本番はここから先にある。
水没した世界を漂う、木造コンテナのような箱舟。内部に窓一つ無く、大きな家畜小屋のような雰囲気。閉ざされた暗い生活空間。生き残っている人間は、ノアとその家族だけ。選ばし者としての自覚を持つノア。彼は、妄信的な信仰者となり、家族の未来より神の意志を優先させていく。そして徐々に狂気に飲み込まれていく。
アロノフスキー監督得意の展開だ。聖書に登場する、型通りのキャラだったノアが、一人の人間として、危うさ、痛々しさを獲得する。そして、彼が『シャイニング』のジャック・ニコルソンみたいになっていく様子を、サスペンスフルに描いていく。
前半は何となくノアに感情移入できるが、後半「親父ヤベェ!」と主観が変わる。商業映画的には完全タブーな決断を迫られるノア。「映画として、流石にそうはならないだろ…いや、もし聖書の内容がそうだったら、やっぱりその通りになるよな?」と、最後の最後までかなりハラハラさせられた。
本国では、ノアの解釈がキリスト教信者の一部から結構批判されたりしてるらしい。極めてチャレンジングな映画だと思う。聖書に興味のない方にもオススメです。

hitokoma78

●監督・製作:ダーレン・アロノフスキー ●出演:ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、レイ・ウィンストン、エマ・ワトソン他 ●上映時間:2時間18分 ●配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

【イントロダクション】
ある夜、ノアは眠りの中で恐るべき光景を見る。それは、堕落した人間を滅ぼすために、すべてを地上から消し去り、新たな世界を創るという神のお告げだった。大洪水が来ると知ったノアは家族と共に、罪のない動物たちを守る巨大な箱舟を作り始める。やがてノアの父を殺した宿敵がノアの計画を知り、舟を奪おうとする。壮絶な戦いのなか、遂に大洪水が始まり、ノアの家族と動物たちを乗せた箱舟だけが流されていく。箱舟に乗ったノアの家族の未来とは、人類が犯した罪とは、そして世界を新たに創造するという約束の結末とは──?

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