2013年12月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第71回 風立ちぬ

第71回「風立ちぬ」

「千と千尋〜」以降、宮崎駿監督の作品は、作り方が独特だ。物語が最後まで出来上がらないまま、どんどん制作を進めていく。結果、終盤がバタバタして、ハウルもポニョも、連載漫画の打ち切り最終回みたいな終わり方をする。それは、賛否分かれる原因のひとつにもなっているのだけど、本作はそれらとは明らかに違う。全体の構成がしっかりした作りになっている。だが、本作もまた賛否の別れる一作だ。

この映画には、過去作のように「子供達のために」といった配慮が一切無い。大人向けの、それも特定の大人向け映画だ。主人公堀越二郎は、一見真っ直ぐな正義漢のように見える。しかしどこか常人とは感性がズレていて、多くの観客は感情移入に失敗する。彼は「美しい飛行機を作る」という夢に執着しており、それ以外ほとんど関心を持たない。震災も、戦争も、貧困も、他人事のように表面的に描かれる。それが許される特権的立場にいることについて、彼は葛藤をしない。仕事と夢を一致させ、全力で打ち込むことで全ては肯定される。
物語は一見、結核を患った妻との愛を描いた美談だ。しかし二郎の愛は欲望に近い。そばに居て欲しいから療養施設から連れ出すし、隣で煙草も吸う。そしてやはり葛藤をしない。仕く最優先される。妻菜穂子は全てを分かってそれを許す。彼女は、能動的に彼のエゴを肯定する。犠牲者というより共犯者に近い。愛はここにある。ここにしか無い。
特定の大人向けの作品と書いたが、特定の大人とは、物を作るクリエイターだ。
二郎は、飛行機作りのために、平気で全てを犠牲にできる。「そこまでして、なぜ作るのか?」と悩むこともない。彼の夢は、呪いに近い。そして恐らく、宮崎駿監督のアニメーションに対する姿勢も同じなのだろう。
ものづくりに従事する人間の一部は、憧れと戦慄を持って、この映画を受け止めざるを得ない。
恐るべき怪作だ。


●原作/監督/脚本:宮崎駿(「月刊モデルグラフィックス」連載) 
●声の出演:庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、スティーブン・アルバート、風間杜夫、竹下景子、志田未来/國村隼/大竹しのぶ、野村萬斎ほか ●上映時間:126分 ●配給:東宝

【イントロダクション】
かつて、日本で戦争があった。大正から昭和へ、1920年代の日本は不景気と貧乏、病気、そして大震災と、生きるのが大変だった時代。戦争に突入する日本の飛行機作りに取り組んだ青年の姿、青年と薄幸の少女の出会いと別れ。宮崎駿監督が、ゼロ戦の設計者である堀越二郎と文学者の堀辰雄をモデルに、美しい飛行機を作ることに情熱を傾けた架空の青年・堀越二郎の姿を描く。

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