2013年8月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第67回 ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜

第67回「ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜」

若干29歳の新人監督が、低予算で撮った壮大で意欲的な作品。主人公ハッシュパピーは6歳の少女で、「バスタブ」と呼ばれる野生の土地で、父親と暮らしている。バスタブは、社会から孤立した閉鎖的居住区だ。ある時、バスタブが沈むほどの嵐が来ると言われ、住人のほとんどは、移住を余儀なくされた。土地を捨てられない僅かな人々は水浸しになった世界で生きることを決意する。嵐の後のバスタブは、人が生きていける環境では無い。水没した風景も、美しいわけではなく、映像の中で強調されているのは、大自然の素晴らしさよりも厳しさだ。

映画は常に、6歳の少女の視点で描かれている。想像力で現実との折り合いを付けていて、その上でようやく、幻想的な世界観を成立させている。
移住を強制する政府との衝突が、物語の構図としてある。大抵こういう映画は、「冷酷な政府」と「正しい住民」がわかりやすく対立する。しかし本作は少し特殊で、政府側は概ね適切な対処をしている。ハッシュパピーの父親を含む住民側の方が、頑迷で、むしろ子供達を不幸にしてるように見える。「自然は素晴らしい!」というナチュラルロハスな価値観を、この映画は一方的に押し付けてこない。
力を込めて描かれているのは、大自然云々よりも、ハッシュパピーと父親の、親子関係だ。
父は、娘がバスタブで生きていけるように、厳しく教え込む。彼は自分の余命がわずかだと知っていて、常に焦っている。
娘は、父親を失うには早すぎる。ハッシュパピーは父の異変に気づき、そして世界の異変に気づく。彼女の中で、全ては繋がっている。太古の獣オーロックスは、彼女の中の破滅の象徴だ。それに立ち向かうことは、非情なこの世界に立ち向かうのと、同義になっている。
ハッシュパピー役のクヮヴェンジャネ・ウォレスの熱演は、奇跡と言えるくらい素晴らしい。アカデミー主演女優賞に史上最年少でノミネートされたと聞いて、納得がいった。


●監督/共同脚本:ベン・ザイトリン
●出演:クヮヴェンジャネ・ウォレス、ドゥワイト・ヘンリーほか
●上映時間:93分 ●配給:ファントム・フィルム

【イントロダクション】
アメリカ、ルイジアナ州の湿地帯。長々と伸びる堤防のそば、そこには「バスタブ」と呼ばれる、まるで世界から忘れ去られたような閉鎖的なコミュニティがあった。少女ハッシュパピーは毎日がお祭り騒ぎのようなバスタブで気ままに生きていたが、ある日、大嵐によってバスタブが崩壊。さらに父親が重い病気にかかっていることを知る。少女は音信不通になって久しい母親を探しに世界へ足を踏み出していくことに―。

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