2013年2月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第61回 天地明察

第61回「天地明察」

星を眺めることと算術の問題を解くことが何より好きな碁打ち、算哲(さんてつ)の、暦作りに捧げた半生を描く一代記。

本作品は、2時間21分という長尺でありながら物語の展開はゆっくりで、地道に天体観測を続ける算哲の姿をひたすら映し続ける。そして「暦」というものが、人間にとってどういう存在であるのか、懇々と観客に問い続ける。
我々が普段、当たり前に使っている暦は、今も昔も社会そのものを動かす大きな指針の一つだ。当時、暦を司っていたのは朝廷。そこに仕える公家衆が、利権を守るため、算哲達の前に立ちはだかる。彼等は、悪の組織的なわかりやすいヒールとして描かれている。マンガチックではあるものの、算哲側の苦悩や失意に自然と感情移入でき、それはそれで適切に感じた。
この映画は、他にも少年漫画的な要素が多い。主人公算哲は、算術に没頭するオタクキャラで、宮?あおい演じる「えん」は、それを優しく見守るヒロイン。「早く告っちゃえよ!」と言いたくなるようなベタベタな純愛シーンが反復される。師匠キャラとの死別や、「授時暦を斬れ!」等のキメ台詞があったり、絵馬に数学の問題や解法を記す算額、棒状の計算グッズ等、キテレツ大百科的木製アイテムも多数登場する。諸々見てるだけで楽しい。
算哲が不世出の天才ではなく、挫折を繰り返す一人の人間として生々しく描かれていたのも良かった。我々と同じ、ちっぽけな人間だからこそ、「天の理」への真剣勝負を挑む価値があるのだと思う。暦は、一人の天才の閃きによって作られるものではなく、積み上げられた人間の歴史の上に成り立つ、人々の努力の結晶だからだ。
幾度もの失敗を乗り越え、算哲が証明したのは、不撓不屈の精神こそが大きな仕事の達成を可能にするという、いつの時代にも通じる人間の逞しさだ。
観る者を勇気づける作品、そして学びたくなる作品でもある。


●監督:滝田洋二郎 ●原作:冲方丁
●出演:岡田准一、宮?あおい、中井貴一、松本幸四郎ほか。
●上映時間:141分 ●配給:角川映画、松竹

【イントロダクション】
将軍に囲碁を教える名家に生まれ学問への造詣も深い安井算哲。彼は出世も富にも興味がなく、星の観測と算術の設問を解いている時が一番幸せで、熱中していると周りが見えなくなってしまう不器用な男だった。会津藩主保科正之はそんな算哲を「改暦」という大事業のリーダーに抜擢する。戸惑いながらも挫折にも負けず、持ち前の誠実さとひたむきさで果敢に立ち向かっていく算哲の果てしなき挑戦が始まる。

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