2012年12月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第59回 おおかみこどもの雨と雪

第59回「おおかみこどもの雨と雪」

娘息子を抱えて草原に立つ母。背後には雲の切れ間から射す光。ポスターに描かれている彼女の神々しい姿が、本作の全てを物語っている。作品内では「おとぎ話」と形容されているが、これは英雄譚だ。語り部である娘が、子育てという母の偉業を、一大サーガのように口述していく形でこの映画は進行する。

狼男と恋に落ち、二人のおおかみこどもを授かった主人公「花」。突然の事故で狼男は他界し、残された彼女は、シングルマザーとして子供達を育てていく。
自分が個人的に良いと思ったのは、「正体が周りにバレて大変な事になるんじゃ…?」というサスペンスを持続させておきながら、ついに明らかとなりマイノリティに無理解な世間と戦う、といった社会派な方向へは、決して舵を切らない所だ。この映画は、飽くまで「子育て」「親離れ」といった、家族の物語に踏みとどまっている。
富山の美しい大自然を背景に、成長していく姉と弟。野性的な姉、弱気な弟。二人は自分が何者なのか見つけるように、少しずつ性格や価値観が逆転していく。
そしてクライマックス、姉弟がそれぞれ別の場所で、自分自身に対して、ある大きな決断をする。それは寂しくもあり、嬉しくもあり、頼もしくもあり、危うくもある。花と共に赤子の頃から見守っていた自分(観客)としては、「大きくなりやがって…」と、目頭が熱くなる。
よく出来た子供向けアニメを「大人こそ見て欲しい」とか言ったりするが、本作は「子供にこそ見て欲しい、大人向けアニメ」だ。
自分が生まれるより過去にある物語について、子供である事が終わる未来について、戸惑いながらも何か考えさせられるかもしれない。
めくるめくドラマは無いのだけど、ゆっくりと、運命的に、世界が生まれ変わるような美しい朝をたぐり寄せていく、奇跡のような映画体験だった。


●監督・脚本・原作:細田守
●脚本:奥寺佐渡子
●キャラクターデザイン:貞本義行
●声の出演:宮?あおい、大沢たかお、菅原文太ほか
●上映時間:117分 ●制作:スタジオ地図 ●配給:東宝

【イントロダクション】
人の姿で暮らす?おおかみおとこ?に恋をした大学生の花。一緒に暮らすようになった2人はやがて、雪の日に生まれた《雪》、雨の日に生まれた《雨》という子供を授かった。都会の片隅でひっそりと暮らす慎ましくも幸せな毎日。その日々は父の死により突然奪われる。取り残された花はうちひしがれながらも子供たちをちゃんと育てる決意をし、田舎町に移り住む。日々成長する快活な雪と内気な雨。小学生になった二人にやがて転機が訪れる。

PAGE TOP