2012年9月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第56回 ミッドナイト・イン・パリ

第56回「ミッドナイト・イン・パリ」

ハリウッドの売れっ子脚本家ギルが、恋人と婚前旅行に訪れたパリで、1920年代と現在の間を真夜中に行き来する、大人のお伽話風コメディ。

ウッディ・アレンの作品で久々に大ヒット、批評家からも大絶賛、と聞いて気合を入れて見に行ったのだけど、良い意味で肩透かしを食らった。脚本はシンプルで、全体的に小粒、かと言って平凡な話ではなく、とにかく監督のパリ愛が、若干ひねくれながらもほとばしっている、微笑ましい作品だった。
1920年代こそパリの黄金時代だと信じているギルは、タイムスリップ先で憧れのヘミングウェイやフィッツジェラルドやダリやピカソに出会う。そしてピカソの愛人、アドリアナに恋をする。
「昔は良かった」という懐古主義は、いつの時代の誰の中にも、多少なりともはあると思う。それもいい具合に戯画化したギルというキャラは、周りからさっぱり理解されない所も含めて、多くの共感を覚える。もちろん伝説化された過去には多くの幻想が含まれていると分かっているから、「それじゃダメだぞ」という立場でニヤニヤ見る事もできる。この作品全体に漂っているのは、分かっていながらでも憧れを完全には捨て切れない、というハリウッドの売れっ子脚本家ギルが、恋人と婚前旅行に訪れみっともなさと、ある種の諦観だ。それはウッディ・アレンのパリ愛そのままなのだろう。 愛するパリを描いた映画ではなく、パリを愛する男を描いた映画だ。だから、滑稽ながらもどこか身につまされるようで面白い。
この作品には、当時の文豪や芸術家達がたくさん登場する。彼らの作家性や人間性を知っている人にのみ通じるジョークが諸々あって、教養の無い自分は、所々周りに合わせて笑っているような状況に陥ってしまった。
必要以上に周りが爆笑するので「俺はわかってるぞ」アピールなんじゃないかと、卑屈な解釈をしてしまう自分がいた。


●監督:ウディ・アレン
●出演:キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディ、カーラ・ブルーニ、マリオン・コティヤールほか。
●上映時間:1時間34分
●配給:ロングライド

【イントロダクション】
婚約者とともに憧れのパリを訪れたハリウッドの脚本家ギルは、まさに人生の絶頂期を迎えていた。それなのにどこか満たされない彼は、作家への転身を夢見、この街の黄金時代に想いを馳せていた。そんな彼が0時を告げる時計台の鐘の音に導かれるようにさまよい込んだのは活気漲る1920年代パリのサロン。そこで美しく官能的な女性に出会い…。ウディ・アレンのキャリア史上最大のヒットとなったロマンティック・コメディ。

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