2012年8月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第55回 裏切りのサーカス

第55回「裏切りのサーカス」

舞台は1970年代前半のイギリス。英国諜報部上層部に潜むソ連の二重スパイを、ゲイリー・オールドマン演じる引退した老スパイが突き止める、大人向けのサスペンス映画だ。

スパイ映画というと、007的な荒唐無稽アクションものを想像してしまうが、本作には銃撃戦もカーチェイスもなければ、ボンドガールも面白アイテムも登場しない。背広のオッサン達が、のそのそと地べたを這いずりまわる、地味で哀愁漂う作品になっている。派手さはないけど、ヨーロッパ映画らしく撮り方はひたすらスタイリッシュ。ただ、場面やセリフの切り取り方が洗練され過ぎていて、「何をほのめかしているのか」常に意識してないと混乱してしまう。それに登場人物も多く、苗字で呼ばれたり名前で呼ばれたり、回想シーンが急に入ってきたり、最近馬鹿っぽい映画ばかり観ていた僕としては、なかなか気の抜けない二時間だった。片時もスクリーンから目を離せないけど、物語の展開はゆっくりだ。パズルを解くように頭の中で整理しながら楽しむ、本格的かつ知的なスパイ映画に仕上がっている。
それにしてもスパイの日常は、普通の公務員と変わらない位、飾り気がない。世界を股に掛け、国家のために命を賭して戦っている筈なのに、誰もが皆淡々としている。その上、内輪の話であるせいか、彼らの生きてる世界がやたら狭く見える。原作者のジョン・ル・カレは元スパイ。スパイ達の普段の仕事っぷりが、説得力を持って生々しく描かれている。
70年代のイギリスを再現した、世界観のしっかりした映画でもあり、終始オシャレな雰囲気が漂っている。
途中分からない部分があっても、ゲイリーはじめとする気品あふれる男達を見てるだけでも全く飽きない。
もう一度観て、次は全て把握しながら楽しみたいと思う。


●監督:トーマス・アルフレッドソン 
●出演:ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハートほか。
●上映時間:128分
●配給:ギャガ

【イントロダクション】
1970年代のロンドン。ある作戦の失敗でイギリスの諜報部(サーカス)を引責辞職したジョージ・スマイリーにある日特命が下される。それは今もサーカスに在籍する4人の最高幹部の中にいる裏切り者、ソ連の二重スパイを探し出せというものだった。敵味方の区別もつかぬ世界に生きる男たちの孤独な魂が交錯する時、浮かび上がる真実とは――。スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレの代表作を映画化。

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