2011年8月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第43回 英国王のスピーチ

第43回「英国王のスピーチ」

色々賞を獲りまくった話題作でもあり、かなり身構えて鑑賞した。

物語はヨーク公アルバート王子が、大英帝国博覧会のスピーチで大失態をやらかすシーンから始まる。冒頭からジリジリと緊張感を煽る演出が効いていて、吃音でない自分もヨーク公にすんなり感情移入出来た。彼が抱える吃音という障害が、王族としていかに深刻な問題であるのかも理解しやすい。
全体のストーリーは単純だ。ヨーク公が、言語聴覚士ライオネルと出会い、吃音を乗り越え、王として立派にスピーチを行う。それを、一国の王の話というより、一人の弱い人間が困難を乗り越え成長する物語として描いている。
ヨーク公とライオネル。負け犬二人が独自のやり方で這い上がるという設定が、キャラクター的に矢吹ジョーと丹下段平みたいで熱い。実際練習はスポ根的だし、演説前に待機する部屋はロッカールームのようだ。マイクの元に向かっていく姿も、花道を歩くボクサーのように見える。そして演説中、何度も突っかかりそうになりながらスピーチを続ける王を、「立つんだジョー!」的な目線で応援するライオネル。このシーンは目頭が熱くなる。
素晴らしい作品ではあるし、多くの人の感動を呼び評価されたのだとは思うけど、英国王室に詳しくない自分としては、脚本に多少物足りなさを感じてしまった。本国イギリスの観客には説明するまでも無いのかもしれないが、映画全体を通して「民衆にとって王がどんな存在であるのか」についての描写が余りにも少ないのだ。吃音のヨーク公が民衆からどう認識されていたのか、そしてそれがどう変わったのか(変わってないのか)、そもそも王のスピーチはどの程度影響力を持っているのか、その辺りが何となくしか分からない。結果的にラストに訪れる感動のスケールが小さくなってしまった。
ただ、この映画は飽くまで一人の人間の物語を描いてるので、変にスケールをでかくすると軸がブレてしまうような気もする。本来地味な佳作なのだ。話題作という事で派手な物を期待すると、肩透かしを食らうかもしれない。キャラと役者の演技には文句の付けようが無いので、そこにハマれば傑作として楽しめると思う。

●監督:トム・フーパー
●出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ=ボナム・カーター、ガイ・ピアースほか
●上映時間:118分 ●配給:ギャガ
【イントロダクション】
幼い頃から吃音というコンプレックスを抱えた内気な男が、国王ジョージ6世として望まぬ王座についた。心配した妻が訪問したスピーチ矯正の専門家ライオネルは、王の心に原因があると気付き、独自の治療法とその率直な性格で、王の気持ちを解きほぐしていく。折しもヒトラーの率いるナチス独との開戦を余儀なくされ、揺れる国民は王の言葉を待ち望んでいた。王は国民の心をひとつにするべく渾身のスピーチに挑むのだが――。

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