2011年7月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第42回 ブラック・スワン

第42回「ブラック・スワン」

 前作「レスラー」が、魂の震えるような傑作だったアロノフスキー監督の新作。本作も、前作同様自分の中の何かを揺すぶられる熱い映画だ。

 老いたプロレスラーの悲哀をドキュメント風カメラワークで淡々と描く「レスラー」、プリマ役の重圧に圧し潰されそうになるバレリーナの心理をホラータッチで描く「ブラック・スワン」。映画のジャンルや見方、主人公の性別や年齢も全然違うけど、どちらも追い詰められていく表現者の話だ。一応表現者の端くれでもある自分としてはジャストミートな内容で、特に本作「ブラック・スワン」は、フルスイングの平手打ちを食らわされたようなハードな作品だった。
 主人公ニナは幼い頃からバレエ一筋で、人生の全てをバレエに捧げている。彼女は物語の最初から最後までバレエ以外に関心を持たない。他人との関わりもバレエ抜きではありえない。誘われて遊びに出るのも、性的な行為に及ぶのも、自分のバレエにフィードバック出来ると判断したからで、常に「バレエにとって必要か必要でないか」で人生を生きているように見える。だが、バレエが全てであるが故に、それが揺らいだ時の焦燥感は凄まじい。この映画は、その凄まじい焦燥をウンザリする程延々と描いてる。
 自分を脅かすライバルが現れた事をきっかけに、ニナは平静を失い、少しずつ少しずつ精神的にすり減っていく。現実と妄想の区別が徐々にあやふやになり、それがみるみるエスカレートしていく。最後の方に至っては、やり過ぎなくらいのホラー映画だ。妄想でありながら、そこに至る過程をじっくりとニナ目線で描いてるお陰で、観る側も現実的な恐怖として生々しく体感出来る。そして恐怖のピークは、舞台初日のステージ上で迎える。そこからが壮絶で、圧倒的なクライマックスが待ってるんだけど、…是非とも本編を見て欲しい。
 ストーリーは単純で、フィクションだとも分かっているのに「バレエってここまでやらないといけないのか!!」と、理屈無しに説得させられた。そして、のんべんだらりと漫画を描いてる自分に、思いっきり喝を入れられたような気がして、呆然としたまま試写場を後にした。

●監督:ダーレン・アロノフスキー
●出演:ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、ウィノナ・ライダーほか。
●上映時間:129分 ●配給:20世紀フォックス映画
【イントロダクション】
NYのバレエ・カンパニーに所属するニナは、元ダンサーの母親の元、すべてをバレエに捧げていた。そんな彼女に「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが訪れる。しかし純真な白鳥だけでなく、邪悪で官能的な黒鳥も演じねばならないこの役は、優等生タイプのニナには難しい挑戦だった。黒鳥役が似合う奔放な新人リリーの出現もニナを精神的に追い詰めていき、やがて極度の混乱に陥ったニナは自らの心の闇に囚われて行く。

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