2021年1月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」
第2回 ランボー

第2回「ランボー」

小学二年生の時、同級生のS君の家にビデオデッキがあると聞いて、放課後友人たち数人と遊びに行った。当時家庭用ビデオデッキはまだ珍しい。通されたのはS君の父親の部屋だった。共働きで両親は不在。事務机の上に10インチくらいの小さなブラウン管テレビとβのビデオデッキがあった。中にはすでにテープが入っている。『ランボー』だ。S君が再生ボタンを押すと映画が始まり、さみしげに田舎町を歩くスタローンが画面に映った。一同大興奮。家で自由に映画が観られるなんて。こんなこともできるんだぜ。S君が、一時停止や早送りや巻き戻しをして得意げな顔をする。そして停止ボタンを押すと、じゃ外に行ってサッカーしようぜ、とすみやかに上映会を終了させた。一本丸々観られると思っていた僕はショックを隠せなかったが、周りはビデオの機能をひと通り見られて満足した様子だった。十一月の寒い日に、わざわざ外で遊びたくない。S君に、僕だけ続きを観ていてもいいかと訊くと、あっさりOKしてもらえて、自分ひとり部屋に残ることになった。S君の父親の部屋は二階にあり、そこは四畳程度の薄暗い物置のような場所だった。誰もいなくなると急に心細くなった。映画の続きを再生する。窓の外から聞こえてくる、ボールを蹴る音や友人たちの遊ぶ声。知らない部屋で、僕だけみんなと違う非常識な行動をとっている。モヤモヤとした後ろめたい気持ちだ。なんだか居心地が悪く、早めに切り上げてみんなと合流しようと思った。ブラウン管の中では、ランボーが橋の上を歩きながら白い息を吐いている。彼の頭上の空はどんよりとしていて、部屋の窓から見える景色と同じ色をしていた。ランボーはひとりぼっちだった。何もしていないのに保安官に捕まり、裸にされ、消火ホースからの放水で乱暴に体を洗われていた。それから剃刀で無理やり髭を剃られそうになり、戦争で拷問を受けた記憶がフラッシュバックする。ショッキングな映像だ。僕は特殊メイクを知らず、本当にナイフで胸を切りつけられていると思った。バイクを奪って山に逃げるランボー。いつのまにか夢中になって観ていた。ランボーは筋肉ムキムキで最強戦士なのに、ずっとかわいそうに見えた。彼の悲しみは僕だけが知っている。僕だけが理解できる。だから心に刻み込まなくてはいけない。それは僕にしかできなくて、そうしないと彼はもっとかわいそうになってしまう。使命感のような感情。外でみんなと遊ぶよりも大事なことをしていると思えた気がつくと窓の外が暗い。やがてS君たちが戻ってきた。感想は誰にも言わない。帰り道、田舎町を歩くランボーのさみしげな姿と自分を重ねていた。吐く息が白かった。その日僕は、生まれて初めてひとりで映画と向き合った。

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