2020年9月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第149回 ジョン・F・ドノヴァンの死と生

第149回「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」

若き天才と称賛され続けているグザヴィエ・ドラン監督の新作。9年近く前に『わたしはロランス』が話題になった辺りから、ドラン監督は要チェックだと思っていたのだけど、実は今の今まで一作も観ていなかった。新作が撮られるたび内容や評判を調べたり、アマゾンビデオのウォッチリストにも入れているのに、なかなか手が伸びない。というのも「若き天才」「イケメン」「カンヌの申し子」「LGBTQ」といった各要素が放つ、才能あふれてそう感が眩しすぎたからだ。輝かしい触れこみの圧に、完全に気圧されていた。
予告のエンタメっぽさに惹かれ、今作ようやく重い腰を上げた。「若きスターの死の謎」、自分のような大衆にも普通に楽しめそうだ。
結果的には、「死の謎」は撒き餌のようなものであまり重要でなく、母と息子の関係をテーマにした、監督自身の話とも取れるヒューマンドラマだった。というか、監督はそういう作品ばかり撮っているらしい。

主人公ルパート少年は、監督の過去を投影したキャラクターだ。彼と、シングルマザーである母とのすれ違いやぶつかり合い、そこで生まれる孤独と癒しが、繊細に描かれていく。癒しというのは、秘密の文通を介して人気スターのジョンと孤独を共有することだ。そしてジョンもまた、母親との関係がこじれている。ジョンと母親との衝突は、非常に生々しい。酒の席で罵り合うふたりを見ていて胃がキューっとなった。ルパートと母親のぶつかり合う場面もあるのだけど、こっちは意図的に理想化されているように見える。後半の母へ文句をぶちまけるシーン、子供とは思えないルパートの理路整然っぷりに爽快感すら覚えたし、その後の美しい和解の場面も含めて、監督自身が望んでいた関係なのだろうと感じた。
予告のミステリー要素に期待すると肩透かしを食らうかもしれないけど、少年の成長や母子の関係を描く、美しい映画だ。想像していたよりもわかりやすい内容だったので、より尖っていたと思われる過去作にさかのぼって観ていきたい。

●監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
●出演:キット・ハリントン、ジェイコブ・トレンブレイ、ナタリー・ポートマン、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツ、タンディ・ニュートン、ベン・シュネッツァー、マイケル・ガンボン 他

【イントロダクション】
人気TVシリーズに出演し一躍スターの座へと駆け上った俳優のジョン・F・ドノヴァンが亡くなった。自殺か事故か、あるいは事件か、彼の死は謎に包まれていた。それから 10 年、ドノヴァンと当時 11 歳の少年だったルパートの“秘密の文通”が出版される。今では注目の新進俳優となったルパートが、100通以上の手紙の公開に踏み切ったのだ。それによって明かされるドノヴァンの死の真相とは――。

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