2020年7月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第148回 ミッドサマー

第148回「ミッドサマー」

悪夢のような家族ドラマ「へレディタリー/継承」のアリ・アスター監督最新作。前作は、正に暗黒映画という印象だったのが、今作は一見真逆。舞台となるスウェーデンの田舎町は白夜で太陽が沈まない。色とりどりの花が咲き、人々は白い服を身にまとい、青空のした幸せそうに歌い踊る。楽園のような場所で、やはりグロテスクな悪夢が繰り広げられるのだ。
アメリカに暮らす主人公の女性ダニーは、妹の無理心中で両親を失い心に深い傷を負う。そんな状況の中、恋人とその友達と共に北欧の奥地で90年に一度開かれる祭りに訪れる。最初は牧歌的で楽しげな雰囲気だったのが、ある凄惨な儀式をきっかけにして、徐々に住民たちの素朴で野蛮な世界観に飲み込まれていく。

ネタバレを避けたい映画だ。いわゆる田舎ホラーものなのだけど、単に怖いだけじゃない。「家族」とか「別離」とか「救い」とか重めのテーマを、ホラーを使って描いていて、えぐるように心に刺さった。見方によっては悪趣味とも言えるし、あるいは逆に、何か崇高なものを観ているような不思議な気持ちにもさせられた。監督が持つ独特のセンスと力量のなせるワザだ。147分という上映時間に対しゴアシーンがやや少なめにもかかわらず、ずっと没入して観ることができた。
それから前作でも思ったこととして、この監督は「最悪な事態を目の当たりにするシーン」が異常に上手い。役者はオーバーアクトにも見えそうなくらい嘆くのだけど、全然わざとらしく感じない。真に迫っていて、その強烈な嘆きにがっつり感情移入させられてしまう。「この感情は二度とごめんだ」と、映画を観ながら心底思わされる。それもまた、不思議な気持ちだ。
悪夢的な状況を見せる監督は他にもいるけど、悪夢的な感情を抱かせる監督はアリ・アスターくらいなのではないだろうか。ただこれは、単なる僕の個人的なフィーリングの問題なのかもしれない。
とにかく、次回作も必ず観る監督だ。

●監督・脚本:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィルヘルム・ブロングレン、アーチー・マデクウィ、エローラ・トルキア 他

【イントロダクション】
家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と5人でスウェーデンの奥地で開かれる“90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。

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