2020年1月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第143回 アス

第143回「アス」

『ゲット・アウト』でアカデミー賞脚本賞を受賞した鬼才、ジョーダン・ピール監督の新作。
冒頭、ミラーハウスに迷い込んだ幼女時代の主人公が、自分そっくりの女の子に出会う。自分とそっくりの後頭部を見るという恐怖がフレッシュだった。普段、鏡を使っても自分の後頭部を見ることは難しい。数十年後、大人になった主人公が、家族で夏休みを過ごすため、幼少期に住んでいた家を訪れる。その夜、自分達そっくりのドッペルゲンガー一家が現れ、訳もわからず襲われてしまい……。ここでまだ序盤なのだけど、これ以上のネタバレは自重したい。

監督のインタビューによれば、自分そっくりな人間がいたら怖いという定番アイデアの他に、「ハンズ・アクロス・アメリカ」が子供の頃怖かったという謎の話が出てくる。ハンズ~というのは、全米で600万人以上の人々が手をつないで西海岸から東海岸までを結んだという、1986年に行われた慈善イベントだ。監督が言うには、無数の人間が手をつないで並んでいる映像が不気味だったらしい。ドッペルゲンガーとハンズ~は、全く関係ないのだけど、映像的にもテーマ的にもふたつを結び付けて、完全にオリジナルの恐怖を作り上げている。自分達とそっくりの家族が手をつないで家の前に立っているシルエットは、かなり印象的だ。ちなみにハンズ~は、国内の貧困層を支援しようというイベントで、ドッペルゲンガーはアメリカの隠された貧困層の隠喩でもあるそうだ。
ドッペルゲンガーは恐怖の存在だけど、実は思ったほど強くない、怪物ではなく人間である…というのが良かった。何だったら主人公達の方が怪物なんじゃないかっていうくらい躊躇なく殺していく。観終わる頃には、ドッペル側の物悲しさに感情移入してしまった。
設定は荒唐無稽で、細かいツッコミを色々入れたくなる話ではあるものの、やはり脚本のオリジナリティは素晴らしかった。『世にも奇妙な物語』とか好きな人にはオススメです。

●監督・脚本・製作:ジョーダン・ピール ●製作:ジェイソン・ブラム
●出演:ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカー他
●上映時間:116分 ●配給:東宝東和

【イントロダクション】
アデレードは家族と夏休みを過ごすため、子供の頃に住んでいたカリフォルニア州サンタクルーズのビーチを訪れる。しかしそこで不気味な偶然に見舞われた事で、過去の原因不明で未解決なトラウマがフラッシュバックする。やがて、家族の身に恐ろしい事が起こるという妄想を強めていくアデレード。その夜、家の前に自分たちとそっくりな“わたしたち”がやってくる――。

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