2011年1月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第36回 借りぐらしのアリエッティ

第36回「借りぐらしのアリエッティ」

 「千と千尋の神隠し」以降の宮崎駿作品は、どれも映画としてはいびつだ。王道から外れるようなシナリオや構成を、あえて選んでるかのようにして作っている。「トトロ」や「ラピュタ」を求めるファンからしたら、少々残念な状況かもしれない。個人的には、批評的な観方を楽しめるので悪くないのだが、「ポニョ」終盤辺りのハチャメチャぶりには、正直ついて行けなかった。

 本作は、宮崎駿が脚本のみだった事もあってか、そういう意味では非常にバランスの良い作品に仕上がっている。王道展開の避け方が絶妙で、最後まで良い緊張感を保ち続けている。
 具体的に挙げると、例えば前半敵として現れた猫との関係性。中盤、翔の仲介で無理矢理味方っぽく変わる。王道展開なら、その先「天敵であるカラスにアリエッティが襲われそうになった所を猫が自発的に助けて、完全に和解する」となるのだろう。だが、そうはならない。中途半端なまま終わってしまう。翔との関係も同じだ。終盤、心臓病である彼が胸を押さえて走るシーンがある。王道展開なら「そのまま倒れてアリエッティがリスクを省みず助けを呼ぶ」となるだろう。そうすれば、翔に「借り」を返して、互いを尊重しあう対等な関係になれるだろうし、場合によっては悪役であるハルとの和解も可能だ。だが、そうはならない。翔は普通にアリエッティに会い、別れを告げて終わる。関係性は、中途半端なままだ。妙に現実的で、生々しい。
 同時期に公開されていた「トイ・ストーリー3」とは、真逆の印象だ。「トイ〜」は、「多分、ああ展開して、こう感動するんだろうな」と思いながら観て、実際その通り感動させられた。完璧と呼べる程良く出来てるのだが、ある意味確認作業的な感動だった。
 「アリエッティ」は、「トイ〜」のような怒涛のドラマと比べたら、「ただ出会い、別れた」と言ってしまえるくらい単純な話とも言える。しかし、作り物っぽいベタなドラマを削ぎ落した生々しい演出のおかげで、「ただ出会い、別れた」が奇跡のように思えた。不思議な作品だ。

企画・脚本●宮崎駿 監督●米林宏昌 声の出演●志田未来、神木隆之介、大竹しのぶ、竹下景子、藤原竜也、三浦友和、樹木希林、他 上映時間●94分 配給●東宝

【イントロダクション】
荒れた庭のある広大な古い屋敷の床下に、もうすぐ14歳になる小人の少女アリエッティが、父母とひっそりと暮らしていた。一家は、屋敷の住人に気づかれないように、少しずつ、石鹸やクッキー、電気など必要なものを必要な分だけ借りて暮らしていた。ある夏の日、その屋敷に病気療養のため少年がやってくる。人間に見られてはいけない掟に反し、彼に姿を見られてしまったアリエッティ。家族に大きな事件が迫っていた。
©2010 GNDHDDTW

PAGE TOP