2019年5月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第135回 ファースト・マン

第135回「ファースト・マン」

『ラ・ラ・ランド』の黄金タッグでニール・アームストロング船長の伝記映画を撮ったという話題作。エンタメ色の強い前作とはまるで違う、ひたすら静かで重苦しく、どちらかと言えば文芸的な作品だった。
冒頭、ニールが空軍のテストパイロットとして試験飛行をする。画面はブレまくり、ガタガタと不穏な音が鳴り響く。カメラはニールの視界とニールの顔を繰り返し捕らえ続け、狭苦しいコックピット内に留まり続ける。高高度を飛んで戻ってくるだけのシーンなのに、とにかく閉塞感と緊迫感に満ちていて、この映画が何を描こうとしているのかわかりやすく教えてくれる。

宇宙飛行という冒険は、夢と希望でキラキラしていない。宇宙開発でソ連に勝つという大義だけが先行していて、狂気とも呼べる無茶をしている。当時の技術は未熟で、テストパイロットが事故で死にまくっているのだ。この映画は、そういった現実を生々しく見せつけてくる。本作で描かれる宇宙飛行士は、華やかなエリートというより、劣悪な環境で日々死を隣り合わせにしながら地道に労働する炭鉱夫のようだ。そしてニールのキャリアは失敗続きで、彼の人生は喪失の連続である。
宇宙飛行士の仕事と家庭での生活が並列に語られ、奥さんであるジャネットはもう一人の主人公のように描かれる。物語序盤で家族は幼い娘を病気で失う。親しく近所づきあいしていた同僚も事故で失い、ジャネットは夫の死に怯え続ける恐怖と戦い続ける。職場も家庭も常に死の影をまとっているのだ。
プロジェクト物の映画は、途中頓挫しそうになった時に「何とかやり遂げてくれ!」と応援しながら観るものだろうけど、本作は「いや、もうこれ止めた方がよくね?」と思ってしまうくらい犠牲だらけで暗く展開していく。
息が詰まりそうな映画だけに、広大な月面に降り立ったクライマックスシーンは映像的にも開放感が著しい。静謐さと救いがあって、この場面のためにもアイマックスで観ることをお勧めしたい。

●監督:デイミアン・チャゼル ●脚本:ジョシュ・シンガー
●出演:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ 他
●上映時間:2時間21分 ●配給:東宝東和

【イントロダクション】
まだ携帯電話も無かった時代に、月へと飛び立ったアポロ11号。それは、人類初の月面着陸という、前人未到の未知なるミッションにして、人類史上最も危険なミッションだった。息を呑むほどの緊張感とダイナミックな映像、あたかもアポロ11号に同乗して宇宙空間を旅しているような五感を刺激するほどの臨場感。地球からはるか384,400km―全人類が夢見た彼方へと、あなたを誘う!

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