2010年8月2日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第31回 第9地区

第31回「第9地区」

 南アフリカに作られた、宇宙人居住区が舞台のSF映画。ヨハネスブルグ、スラム、昆虫型宇宙人、この組み合わせが新鮮で、シンプルなストーリーでありながらも全く新しい映画を観てる気分だった。制作費はハリウッド映画としては低予算で、有名俳優は一人も出ていない。監督も新人で、原作も無い。そんな不利な条件下にありながら、本国アメリカで大ヒットしたという。その話を聞いて、アメリカの映画市場の意外な健全さに驚かされた。

 主人公ヴィカスはエイリアン管理事業を委託された民間企業に勤める、平凡な会社員。エイリアン宅に戸別訪問して、彼らが現在住まう第9地区から第10地区に移住するよう説得をする。ヴィカスの平凡さが、突飛な世界観の中で際立ち、コミカルだ。ヒョンな事から、ヴィカスの片腕がエイリアン化してしまい、彼の平穏は破壊される。この映画は、平凡な主人公の、平穏な日常を取り戻す物語だ。
 「アバター」が公開された時、「もののけ姫」との類似性が指摘されたが、僕はむしろこの「第9地区」こそ「もののけ姫」的だと思った。「アバター」の主人公は、ナヴィ族の代表者になり人類と戦うが、ヴィカスは基本的には人類側にもエイリアン側にも立ってない。アシタカのように中間的立ち位置にいる。ただ、アシタカは「全体の平和」の為に戦い、ヴィカスは「自分の平和」の為に戦う。アシタカはヒーローであり、ヴィカスは小市民だ。だが、小市民だからこそ、我々はヴィカスに感情移入する。「アバター」のように単純な善対悪の二項対立で状況を見る事も無い。エイリアンの相棒を助ける熱いシーンもあるが、それは彼らの側に立ったからでは無く、あくまで個人的な友情の為であり、自分の為であったりする。一人の人間に、人類や宇宙人を代表する事など出来ないのだ。その点において、この映画には信頼できる公平さがあると思った。
 「もののけ姫」のラスト、アシタカの腕のタタリは消えるが、ヴィカスはそうはならない。ヒーローと小市民の違いはそこに現されてるけど、「人間らしくなくなった、人間らしいラスト」に涙腺が熱くなった。


監督・脚本●ニール・ブロムカンプ プロデューサー●ピーター・ジャクソン 
出演●シャルト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ジェイソン・コープほか 
上映時間●111分 配給●ワーナー・ブラザーズ映画、ギャガ

【イントロダクション】
正体不明の巨大宇宙船が突如、南アフリカ共和国に飛来した。首都上空から動こうとしない船に政府は偵察隊を派遣、故障した船内で発見されたのは弱り果てたエイリアンの群れだった。28年後、難民としてエイリアンが暮らす居住区「第9地区」はスラムと化していた。超国家機関MNUはエイリアンの強制移住を決定し、ヴィカスを責任者として指名。しかし、立ち退きを通達して回るうち、歴史を変える大事件が起きてしまう。決定し、ヴィカスを責任者として指名。しかし、立ち退きを通達して回るうち、歴史を変える大事件が起きてしまう。

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