2018年10月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第128回 ファントム・スレッド

第128回「ファントム・スレッド」

舞台は1950年代のロンドン。天才的なドレスの仕立て屋レイノルズは、ある日ウェイトレスのアルマと出会い、その場でデートに誘う。オシャレなレストランでディナー中、「僕は亡くなった母親の髪の毛をいつも上着に縫い付けてある」と衝撃的な発言をさらりとするレイノルズ。アルマは部屋に連れ込まれ、濡れ場が始まると思いきや、なぜか体を採寸される。そして突然彼の姉が現れ、そのまま住み込みのモデルとして採用されることになる。美しい映像に魅了されつつも、サスペンスなのかロマンスなのかブラックコメディなのか困惑させられる、不思議な映画だ。

前半は、謎めいた天才レイノルズに一方的に惹かれていくアルマへ感情移入するのだけど、あることをきっかけに、レイノルズが彼女に特別な感情を抱くようになり、主導権が入れ代わる。今度はアルマがミステリアスな存在になり、気が付くと彼女の扱いに四苦八苦するレイノルズの方へ感情移入して観ていた。恋愛のシーソーゲーム的なやりとりが、ラブコメではなく、狂気を含んだシリアスドラマとして緊張感たっぷりに描かれ、最後まで目が離せない。それでいてベタな恋愛あるあるエピソードも絶妙なバランスで散りばめられていて、他人事に思えなかったりもする。「あっ、この男ヤバイ」「あれ? この女もヤバイ」「そもそも恋愛って、多かれ少なかれ何らかの狂気を含んでいるものなのでは…」等、色々と考えさせられた。最終的に観客を突き放すような結末を迎える、PTA監督らしいラブストーリーだった。
入念に役作りした、ダニエル・デイ=ルイスの名演技、アカデミー賞を受賞したきらびやかなドレス、ジョニー・グリーンウッドの楽曲。どれも素晴らしく、いつも通りのPTA監督作品だ。前作『インヒアレント・ヴァイス』、前前作『ザ・マスター』と比べても、かなり理解しやすい内容になっているので、ファン以外にも強くオススメしたい。

●監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
●出演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴィル 他
●上映時間:130分 ●配給:ビターズ・エンド/パルコ

【イントロダクション】
1950年代、ロンドンの天才的な仕立て屋レイノルズ。彼はウェイトレスのアルマと出会い、彼女を新たなミューズに迎え入れる。彼はアルマの“完璧な身体”を愛し、彼女をモデルに昼夜問わず取り憑かれたようにドレスを作り続けた。しかし、アルマの気持ちを無視して無神経な態度を繰り返すレイノルズに不満を募らせたアルマは、ある日朝食に微量の毒を混ぜ込む…。

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