2010年6月30日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第30回 マイレージ、マイライフ

第30回「マイレージ、マイライフ」

ジョージ・クルーニーが演じるライアンの職業は、全米を飛び回り企業のリストラ対象者にクビを通告する、リストラ宣告人。「オマエはクビだ!」って言う事すら専門の会社にアウトソーシングにしてしまうのがアメリカらしい。宣告した後に「これはチャンスなんだ」的な口先のフォローをして、雇用主といざこざが起こらないようにするのが仕事なんだろうけど、宣告を無関係の奴に頼んでる時点でいざこざは起こりそうな気がする。恋人への別れ話を、金払って他人に代理させるみたいな行為だ。

この映画では、宣告を依頼する企業側の人間についてや、リストラされる社員の落ち度については、ほとんど語られない。唐突に現れ、運命的にクビを言い渡す。まるで死神のように。宣告を受け絶望する人達を、次から次へと見てるうちに「働くってなんだろう?」と考えさせられた。
人は生きていく上で、知らず知らずの内に多くの物を抱えてしまう。家族であったり、恋人であったり、家や車であったり。人生とは、それらを絶えず守り続ける過程であり、それを現実的に支えているのは、いつ失うかも分からない「仕事」だ。
不確かな物に人生を支配されている。その不安定さを知っているライアンは、できるだけ身軽に生きようとする独身主義者だ。
彼は滅多に家には帰らず、飛行機の機内とホテルで生活のほとんどを過ごしている。夢は、航空会社のマイレージを一千万マイル貯める事。寂しい人間ではあるが、自分の人生を自分で支配する事に美学を持っている。そんな彼が二人の女性と出会う所から物語は始まる。
一人は会社の若い新入社員。もう一人はホテルのバーで出会ったビジネスウーマン。物語と言っても意外な展開は何も無い。彼女達との交流を通じて、「このままじゃいけない」と人生を見つめ直すだけである。正直「単純な奴だ」と思ってしまったのだが、自分で生き方を決めた大人であろうが、いつか変わらなくてはいけない事もどこかで分かっていて、単にきっかけを探しているだけなのだ。
映画は、全体的に皮肉がきいていて、ビターな大人のヒューマンドラマに仕上がっている。結婚に価値を見いだせないまま、今更人生観を変える事の難しい年齢になってしまった主人公が代価行為としてマイレージを貯める。哀しいブラックジョークのようで身に染みた。


監督●ジェイソン・ライトマン 脚本●ジェイソン・ライトマン、シェルドン・ターナー 
出演●ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリックほか 
上映時間●109分 配給●パラマウント ピクチャーズ

【イントロダクション】
目標は1000万マイル達成、年間出張322日、企業のリストラ対象者に解雇を通告するプロ、リストラ宣告人のライアン・ビンガム。二度と会わない相手に人生のやり直しを淡々と告げる彼の言葉は、リストラによるトラブル回避のテクニックだ。人間関係のしがらみを避け続けるライアンだったが、二人の女性との出会いと家族間に発生した問題をきっかけに、人生で初めて、過去の自分とこれからの自分を考え始める…。

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