2010年6月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第29回 ラブリーボーン

第29回「ラブリーボーン」

不思議な映画だった。
殺された少女が、家族を想いながらこの世とあの世の境をさ迷う。幻想的な映像と共に、延々その様子が映し出されていくんだけど、物語や登場人物の描き方までおぼろげで、力強さをほとんど感じなかった。

「ハリウッド映画だし、あれこれ知恵を絞ったり、決断をしたり、逆境をはねのけて、家族愛の力で犯人をやっつける、お決まりのエンターテインメントを見せてくれるんだろうな」と想像して観ると、良くも悪くも肩透かしを食らうと思う。
目的の為に行動を起こして結果を出す、というハリウッド映画的カタルシスを感じられるのは、ラスト近くの妹が冒険するシーン位で、後はひたすら無常感や喪失感が支配している。
例えば、個人的な印象かもしれないけど、死後の世界に留まる主人公の無力感は、最後まで解消されなかったように感じた。彼女の世界は始終ボンヤリしている。そのせいで試行錯誤や創意工夫といった現実的なプロセスがさっぱり見えない。
結果的に奇跡的な出来事は起こるのだけど、奇跡を勝ち取ったのではなく、「何となく、神様からのお目こぼしを頂いた」ようにしか思えないのだ。
死後の世界では、「尽力して何かを勝ち取る」という概念自体が無いかのよう。主人公が彼女自身の力で成し遂げた事は、「自分の死を受け入れる」だけではないだろうか。
ただ、この映画におけるもっとも重要なテーマは、そこにある。CGでファンタジックな世界を見せたり、伏線も無くご都合主義的な展開をしたり、非現実的な要素は多いのだけど、実は「家族を失った犯罪被害者がすべき最も大切な事の一つは、死を受け入れる事である」という非常にリアリスティックなメッセージが本作品には込められている。犯人への復讐は重要ではないのだ。
主人公は死を受け入れ天国に旅立ち、破壊されていた家族も彼女の死を受け入れ再生する。全体的にボンヤリしてるけど、その部分だけはくっきりと見えた。
スカッとはしなかったけど、ありがちなハリウッド映画とは一線を画していて、不思議と印象に残る映画だった。

監督●ピーター・ジャクソン 脚本●フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、ピーター・ジャクソン
製作総指揮●スティーブン・スピルバーグ 出演●マーク・ウォールバーグ、レイチェル・ワイズ、
シアーシャ・ローナンほか 上映時間●2時間15分 配給●パラマウント ピクチャーズ ジャパン

【イントロダクション】
世界30カ国以上で1000万部を売り上げたベストセラー「ラブリー・ボーン」の映画化。1973年、スージー・サーモンは、学校からの帰り道に14歳で殺された。スージーの天国から届けたい想いとは、そして彼女の起こす奇跡とは…。天国にいる少女が残された家族や初恋の人を想い続け、壊れゆく家族に届かぬ声を伝えようとしながら、再生していく家族の絆を見守る感動の物語。

PAGE TOP