2018年2月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第120回 ダンケルク

第120回「ダンケルク」

ノーランは僕が大好きな監督の一人だ。頭良さげかつ重厚かつエンタメ性もある作品を次々撮っている。「よくよく考えるとすごくヘンテコな話じゃないかこれ?」と思ってしまいそうな物語でも、ノーランの手にかかれば、映像美や演出の巧みさで「むしろ深い」と唸らされてしまう。

今作は、ダンケルク海岸でドイツ軍に包囲された英仏軍40万人が奇跡的な撤退を果たすという史実を元にした戦争映画だ。実話だけに大ぼら吹くような設定や、捻りの効いた展開はほぼ無い。そういう意味ではノーランらしくないのかもしれないが、緊迫した戦場の雰囲気を、ド直球ド迫力な音と映像で体感させてくれる。ストーリーを楽しむより、状況を擬似体験するタイプの映画だ。
特徴のひとつとして、この映画は戦場を描いているのにグロ描写がほぼ無い。人はたくさん死ぬが、決定的瞬間は巧妙に画面の外へ追いやっている。にも関わらずヌルいとか物足りないとか全く感じなかった。ほとんどの場面で不穏な音楽や音が鳴っていて、常時死の恐怖に追い立てられるようだった。敵の姿がずっとハッキリ見えないというのもサスペンスフルだ。
シナリオ構成も特徴的だ。海岸、海、空の3つの舞台で各々の物語が進んでいくのだけど、それぞれ1週間、1日、1時間という異なる時間軸を並行させている。最終的に繋がっていくものの複雑に絡み合ったりはしないので、混乱することなく観られると思う。全編映像美で魅せられる中、特に空の場面は見とれてしまった。海面の光、着弾の火花、尾を引く煙、広大な空と相まって全てが息を呑むほどに美しく荘厳に撮られている。
ノーラン作品の中では、ある意味生真面目とも言える内容なので、奇抜な映画(『プレステージ』や『インセプション』)を期待すると肩透かしを食うかもしれない。僕はラスト、感動で涙ぐんでしまったのだけど、よくよく考えるとノーラン作品では初めてだった。IMAXでもう一度体感したい。

●監督:クリストファー・ノーラン
●出演:フィン・ホワイトヘッド、ハリー・スタイルズ、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィ、マーク・ライランス、トム・ハーディ 他
●上映時間:1時間46分 ●配給:ワーナー・ブラザース映画

【イントロダクション】
海の町ダンケルクに追いつめられた英仏連合軍40万人。若き兵士トミーは、絶体絶命の窮地を生き抜くことができるのか!? 限られた時間で兵士たちを救い出すため、ドーバー海峡にいる全船舶を総動員した史上最大の撤退作戦が決行される。民間船をも含めた総勢900隻が自らの命も顧みず一斉にダンケルクに向かう中、ドイツ敵軍による陸海空3方向からの猛攻撃が押し寄せる―――。

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