2010年1月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第24回 しんぼる


本作「しんぼる」は、感想やレビューを普段通り率直に書くのが難しい。理由は二つある。ひとつは、上映後配られた用紙に書かれた、ネタバレしてはいけない部分が「内容ほぼ全て」に近い状態だった事。もうひとつは、自分がギャグ漫画家として、芸人松本人志に多大な影響を受けている為、あれこれ語る事を非常におこがましく感じてしまう、という問題である。これは極私的な事情なので、なるべく客観的に語っていくよう努力するとして、具体的な内容に触れられないのは、かなり厳しい。とは言え、色々と言い表したくなる作品ではあるので、細かい内容には触れず、この映画がどういう「笑い」をやっているのかについて、何とか書いてみようと思う。

 「白い部屋に閉じ込められた男が、脱出しようとアレコレ試みる」「メキシコのとある町で、プロレスラーが試合に向かう」
 この映画は、無関係な二つの物語を平行して描いていく。白い部屋の方は分かりやすいドタバタコント、メキシコの方は笑いは一切無い。リアリティ溢れるドラマパートだ。僕は「最終的に二つの世界は繋がるのだろうけど、基本的にこの映画における『笑い』は、白い部屋のドタバタコントにあるのだろうな」と思いながら、前半の成り行きを観ていた。しかし後半、二つの関係が明らかになった瞬間、僕は笑うと同時に、「この映画における『笑い』はそっちか!」と衝撃を受けた。後から考えれば、予想出来ない繋がり方ではなかったのだが、鑑賞中には全く気付けなかった。前半部分は大雑把にまとめるとフリだ。しかし、このボケに対するフリとしてはハッキリ言って過剰すぎる。だから気付きにくいし、意外性が高まっているのだ。
 過剰と言えば、それがノリ突っ込みという形で見られた監督の過去作品「頭頭」が懐かしい。本作は、「頭頭」に感じた、過剰さから来る作品上の不均衡感が、後の展開によって解消される作りになっている。非常にテクニカルで見事だと思う。どう展開するのか具体的には書けないが、そこには最大の仕掛けがある。
 この映画は、言わば一問の大喜利だ。初期設定では「白い部屋とメキシコの関係」がお題になっている。だがそれはミスリードで、もっと違う角度の、実に大喜利らしいお題と回答を、ずっと見せられていた事に、突然気付かされる。そして明確な形で、映画の中の世界が完成するのだ。前作「大日本人」は、ペーソスが笑いの中心だったけど、今回は完全に大喜利的発想が笑いの中心にある。攻めの作品に仕上がっていて、個人的には大満足だった。

企画・監督・主演:松本人志  脚本:松本人志 高須光聖
上映時間●93分 配給●松竹 製作●吉本興業

【イントロダクション】
2007年に公開された初監督作品『大日本人』で映画監督として衝撃のデビューを果たした松本人志の長編監督第2作。本作も『大日本人』と同様に、松本自らが企画・監督・主演する。ストーリーは、周囲を白い壁に囲まれた部屋に閉じ込められていた謎の男がどうにかして脱出を図ろうとするが、いろいろなことに巻き込まれていく…、ということ以外、詳細は謎に包まれている。

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