2016年11月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第105回 帰ってきたヒトラー

第105回「帰ってきたヒトラー」

歴史上の人物が現代にやってきてドタバタ…という設定にありがち感を覚え、大きな期待を持たず観たのだけど、意外と新鮮で何より時代性のある作品に仕上がっていた。

普段尖ったアメリカ映画ばかり観てるせいか、最初はコメディ部分のベタなノリに戸惑う。慣れてくる頃、ドキュメントタッチで撮られたインタビューシーンが加わってきて、「だたのコメディじゃないな」と引き込まれた。リストラされたテレビマンに見出されたヒトラーは、インタビュアーとなって市井の人々に話を聞いて周り、巧みな弁術で社会への不満を次々と吐き出させていく。動画は100万再生を越え、彼はヒトラーのモノマネ芸人として生放送のバラエティ番組へ出演。マイクの前に立つヒトラー。周囲が不安になる程の長い沈黙。例の有名な演説テクニックだ。そして政府やメディアへ向けた力強い毒舌がふるわれ、ショーは馬鹿ウケする。訴えが本気であればある程、巧みなブラックジョークとして成立してしまうのだ。
人気が高まるにつれ、ヒトラーの大衆からの受け取られ方がじわりじわりと変わっていく。展開はきな臭くなっていくが、基本コメディなので個々のジョークも面白い。ヒトラーが自分の名前でメールアカウント作ろうとしたら、「すでに使用されています」と出て「どういうことだ?」ってなるくだりは、思わず吹き出した。
ヨーロッパで極右政党への支持率が上昇している昨今の状況を皮肉った、同時代的なコメディ映画だ。もちろん欧州だけでなく世界的問題でもあり、成り行きだけ見るとこのヒトラーはドナルド・トランプを彷彿とさせる。過激な政策で熱狂的な支持を受けているトランプも、最初はネタ候補のように扱われていた。
この作品は、大衆に向け冷静になろうというメッセージを発している。しかし危険であるがゆえに支持されるトランプのように、少なくともこの映画におけるヒトラーのキャラクターとしての魅力に、完全に抗うのは難しいかもしれない。

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●監督:デヴィッド・ヴェンド
●出演:オリヴァー・マスッチ ファビアン・ブッシュ クリストフ・マリア・ヘルプスト カッチャ・リーマン フランツィシカ・ウルフ他

【イントロダクション】
ヒトラーの姿をした男が突如街に現れたら?「不謹慎なコスプレ男?」顔が似ていれば、「モノマネ芸人?」。リストラされたテレビマンに発掘され、復帰に足がかりにテレビ出演させられた男は、長い沈黙の後、とんでもない演説を繰り出し、視聴者のドギモを抜く。自信に満ちた演説は、かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸と認識され、過激な毒演は、ユーモラスで真理をついていると話題になり、大衆の心を掴み始める。しかし、皆気づいていなかった。彼がタイムスリップしてきた〔ホンモノ〕で、70年前と全く変わっていなことを。そして、天才扇動者である彼にとって、現代のネット社会は願ってもない環境であることを――。

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