施川ユウキ映画コラムー全ての映画は、ながしかく

2009年5月21日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第4回 アメリカン・ギャングスター

第4回「アメリカン・ギャングスター」 

 1970年代のニューヨークを舞台に、麻薬王フランク・ルーカスと麻薬捜査官リッチー・ロバーツという実在した人物をクローズアップして描いたクライムストーリー。ギャング映画ではあるものの比較的バイオレンス色は薄めで、どちらかと言うと「ガイアの夜明け」でも観てるような経済色の強い話だった。
 フランクは、安価で純度の高いヘロインの供給を既得権団体であったマフィアを介さない事で実現させるべく、生産地であるタイの奥地まで単身買い付けに行く。商談を成立させ、流通を確保し、一貫した商品管理が可能なシステムを作り上げる。そしてビジネス展開が軌道に乗ってきたら販路を拡大させ、更にはブランドマネジメントまで手掛けた。
 黒人のフランクが、組織に頼らずたった一人で築き上げたビジネスモデルとそれによる成功が象徴しているものは、「アメリカン・ギャングスター」の正に「アメリカン」の部分だ。自由主義経済が抱く可能性そのものである。商品が麻薬だった事を除けば、彼の起業プロセスはクレバーでアメリカ的正しさを持っているし、そのアメリカンぶりは彼のライフスタイルからも容易に窺える。上品にスーツを着こなし、健全で規則正しいストイックな生活を心がけ、厚い信仰心を持ち、家族を大事にする。理想とされるエリートビジネスマンのイメージそのまんまだ。
 そんな華やかなフランクとは対照的に、彼を追う刑事リッチーの置かれている状況は暗い。警察内は不正がはびこり、唯一人正義を貫くリッチーは周りから疎まれている。相棒のジェイは麻薬に走り中毒死を遂げ、プライベートでも離婚した妻を相手に息子の養育権をめぐって裁判中だ。警察の不正、離婚、麻薬中毒死。彼の周辺もまた負の面でアメリカを象徴しているが、フランクと違ってやたら生々しい。
 麻薬の匂いをさせない麻薬王のスマートなエグゼクティブイメージ。正義が蔑ろにされる警察の汚れきった現実。この映画はそんな二つのアメリカを両側から描きつつ、ゆっくりと肉薄させていく。やがて両者は静かに対面を果たし、アメリカ社会に大きな衝撃と変革をもたらす事となる。
 時代に依存したフランクの不安定で胡散臭い成功と、地を這うように生きるリッチーが勝ち取った確固たる正義に、虚実ない交ぜのまま動いていくダイナミックなアメリカを見せ付けられた気がした。

「アメリカン・ギャングスター」
監督●リドリー・スコット
出演●ラッセル・クロウ、デンゼル・ワシントン、キウェテル・イジョフォー、キューバ・グッディングJrほか
上映時間●2時間37分 配給●東宝東和
【イントロダクション】
ハーレムを仕切るギャングのボスに15年間仕えてきた運転手のフランクはボス亡き後、一匹狼として生きることを決意。ベトナム戦争の軍用機を利用して麻薬を生産者から大量に仕入れ、安価で大衆に販売する戦略により麻薬王の座に上り詰める。派手な行動を慎んだことでその正体は誰にも気付かれずにいたが、特別麻薬取締局のリッチーが疑惑の目を向ける。

2009年5月13日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第3回 エリザベス:ゴールデン・エイジ

第3回「エリザベス:ゴールデン・エイジ」 

 「この映画で私が努力したことは、ある種の空虚を抱えた女を作り上げること。友達も無く、夫も無く、子供も無い。だから、そのむなしさを埋め合わせてくれる何かを探し求めるの」
 主演のケイト・ブランシェットが語るように、この作品は虚無に満ちている。上映中、僕が常に感じていたのは、ここ最近の特に邦画でよく見られる安易なお涙頂戴ものとは一線を画すような虚無感、大胆な言い方をすれば「感動の与えなさ」だ。「自分への暗殺を企てた従姉妹の処刑を止められなかった悲劇」「信頼していた侍女に男を寝取られる悲劇」「戦争という悲劇」等、物語が展開していく中でドラマチックな事件が次々とエリザベスの身に降りかかって来るのだが、それらは皆淡々と脚本を消化していくようにスクリーンを上滑りしていく。
 感動を生む事は簡単にできる。例えば、過去に従姉妹とどういう関係であったのか、かつて懇意であったならそのエピソードを挟めば処刑シーンで泣けるだろうし、エリザベスとローリーの間に激しい熱愛関係があれば裏切りに対してもっと衝撃を受けただろうし、戦争で大切な人を失ったのなら心に深く感じることもあっただろう。
 しかし、従姉妹とはドライな関係であったことしか描かれていないし、ローリーとは熱愛と呼べる程の関係を持っていないし、戦争は拍子抜けな位あっさりと終わる。「史実がそうであったから」という理由ではなく(そもそもこの映画は史実をあまり重視していない)、そこに明らかな演出的意図を感じた。
 もし、それら全てに怒涛の感動を演出していたら、この作品は恐らく下品で安っぽい昼ドラとしか見られなかっただろう。ケイトの言う「空虚を抱えた女」も描けなかったかもしれない。エリザベスには友達も、夫も、子供もいない。数々の悲劇を希薄にさせる他者との関係性こそが、最大の悲劇なのだ。
 激しい感動とは一つの身体性であり、処女女王(ヴァージン・クイーン)の称号はその欠落感を象徴している。豪奢な衣装に身を包んで時代を突き進んでいく彼女はとても美しく、とても空虚に見えた。

「エリザベス:ゴールデン・エイジ」
監督●シェカール・カプール
出演●ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュ、クライヴ・オーウェン、アビー・コーニッシュほか
上映時間●1時間54分 配給●東宝東和
【イントロダクション】
数奇な運命を背負いながらも25歳でイングランド女王に即位。国家と添い遂げ、あらゆる陰謀や策略に抵抗するために、全世界、そして神の御前で女の幸せを捨て〈ヴァージン・クイーン〉になったエリザベス。アメリカ大陸から帰還した航海士ローリーとの出会いと恋、葛藤の最中、女王暗殺事件をきっかけにスペイン無敵艦隊との国の存亡を賭けた戦いがはじまる…。

2009年5月5日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第2回 ボーン・アルティメイタム

第2回「ボーン・アルティメイタム」 

 ボーンシリーズ三部作の完結編。二作目が未見である事に試写会当日に気付く。「まあ、アクション物だしパンフに目を通しておけば何となくわかるだろ」と思って観たら、見事に引っかかる所無く楽しめた。
 この映画に複雑なストーリー展開は無い。ボーンが目の前の状況を無駄の無い動きで冷静に黙々と打開していく、その華麗さにひたすら酔いしれる作品だ。アクション映画でありながら、身体性よりも迷い無くサクサクと最適な判断を下していく知性や、全く揺るがない堅牢な精神性の方に魅せられる。アクションの連続と言うより判断の連続。例えるなら、ルービックキューブを猛スピードで完成させるとか、テトリスのスーパープレイとか、そういう行為を見てる時に感じる理系的エクスタシーが、激しいアクションの合間合間に詰まっている。正に男の映画だ。
 各シーンは、基本「ボーンと工作員が戦う現場」と「敵の基地であるCIAの司令室」の二場面を中心に展開していく。ボーンは現場で工作員と格闘しながら、同時に司令室との頭脳戦も繰り広げる。司令室と現場のドタバタが映画のメインとなってる訳だが、この構図に妙な既視感を覚えた。
 ……そう言えば、テレビのバラエティ番組でよく見る。司令室側と現場側、一番分かりやすい例で言えば「ロンハー」における淳とドッキリのターゲットとか。「めちゃイケ」でも矢部が司令室側で岡村が現場側という状況をよく見る。もちろんバラエティ番組の方がスパイ物のパロディとしてやっているのだろうけど、僕が極度のテレビっ子であるせいか、映画のそういったシーンがバラエティの延長のようにも見えてしまう。
 CIAの局長「ボーンさん、何してはるんですか?(矢部っぽく)」…みたいな。その目線で見てたら、攻防が余りにハイレベル過ぎて「やり過ぎ! やり過ぎ!」と思わず吹き出しそうになった。多分、間違った見方だ。

「ボーン・アルティメイタム」
監督●ポール・グリーングラス
出演●マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、ジョアン・アレン、デヴィッド・ストラザーン・ほか
上映時間●1時間55分
【イントロダクション】
記憶喪失の男、ジェイソン・ボーン。彼は、なぜ自分が執拗に追われ、命を狙われるのか理解できなかった。しかし彼には、次々と降りかかる絶体絶命の危機に、反射的に対処できる戦闘能力が備わっていた。やがて自分がCIAの元暗殺者だと知ったボーンは、過去を取り戻すため走り出す。心の通った人間としての自由と未来を掴み取るために…。

2009年4月30日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第1回 自虐の詩

第1回「自虐の詩」 

 映画の感想を語る時「原作と比べると…」とか言う奴が嫌いだ。海外の小説など滅多に読まない自分からしたら「え、原作読んでないの? 読まずに映画観るの? 浅くない? って言うか普段から本とか読んだ方がいいよ」的な事を言外に言われているような気がしてならない(被害妄想)。そんな場面ではいつも全力の仏頂面で不機嫌をアピールし、気まずくやり過ごす事にしている。
 で、この「自虐の詩」ですが、原作と比べると若干毛色の違った作品になっています。…スミマセン。原作読んでない人は全力の仏頂面でこの先を読んで下さい。
 原作「自虐の詩」は、社会の下層に属するどうしようもない二人の変わらない日常を何度も何度も繰り返し描き、読者に滑稽な生活ぶりを十分認識させてから、ラストにその日々がいかに価値のあるかけがえの無い物だったのかを気づかせ嵐のような感動を呼び起こす、という歴史的傑作だ。均質なテンポで淡々と日常を描く4コマだからこそ、結実した奇跡だと思う。
 一方、映画「自虐の詩」は良くも悪くも映画そのものだ。主役の阿部寛と中谷美紀は役作りしてるものの華があるし、構成や演出は独特でケレン味がある。特に印象的だったのが後半の自殺未遂するシーン。ベッドの上に鮮血が広がるカットは恐ろしいほど絵になっていて、瞬間的に心を揺さぶられた。日常描写的にサラッと描いてる原作とは対照的だ。
 物語はクライマックスで分かりやすく「泣かせ」に行っている。だが、確信犯的な堤幸彦演出のお陰であまりあざとさを感じさせない。あざとさを指摘する前に、「イサオの風貌は、ヤクザから足を洗ってからの方がヤクザっぽくなってる!」とか面白い方に色々ツッコミを入れたくなる。ただ、堤幸彦特有のツッコミ所の多い演出は、強く出れば出るほど我々の生活世界から遠ざかってしまう。生活賛歌がテーマである本作では、そこに多少のジレンマを感じた。

「自虐の詩」
監督●堤幸彦
出演●中谷美紀・阿部寛・遠藤憲一・カルーセル麻紀・松尾スズキ・ほか
上映時間●1時間55分
【イントロダクション】
「日本一泣ける4コマ」と名高い業田良家原作の『自虐の詩』がついに映画化。母の顔は知らず、父は銀行強盗、子どもの頃から苦労を重ねてきた幸江。仕事もせず、気に入らないことがあるとちゃぶ台をひっくり返す内縁の夫、イサオと暮らしている。そんな中、運命を急展開させる出来事が…。

2009年4月24日 [まんがライフオリジナル, 施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ先生映画コラム「全ての映画は、ながしかく」バックナンバー公開スタートします!

まんがライフオリジナルで連載中の施川ユウキ先生映画コラム「全ての映画は、ながしかく」を毎週木曜日に第1回から掲載開始します!
メジャーな映画からマニアックな映画を、思わず噴出す1コマコメントと施川ユウキ先生の独特な世界観で綴るコラムは必読です!!どうぞお楽しみに!

2009年1月28日 [まんがくらぶ, まんがくらぶオリジナル, まんがライフ, まんがライフオリジナル, まんがライフMOMO, すくすくパラダイスぷらす・増刊号・その他, オリジナル4コマ, 施川ユウキ映画コラム]

竹書房ねこ4コマコミックス大集合!にゃんにゃんにゃんフェア2009開催!

竹書房ねこ4コマコミックス大集合!にゃんにゃんにゃんフェア2009

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