施川ユウキ映画コラムー全ての映画は、ながしかく

2020年11月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第152回 ポップスター

第152回「ポップスター」

教室で銃乱射事件に巻き込まれ、生死の境をさまよい、一命をとりとめた主人公セレステ。回復後、姉と作った犠牲者への追悼曲が大ヒットしたのをきっかけに、彼女はスターへの階段を駆け上がっていく。あらすじだけ聞くと、ドラマチックに展開していくサクセスストーリーを期待してしまうが、自分の予想とはかなり違う作りになっていた。前半、デビューに至るまでを淡々と描き、いよいよ起承転結の承が始まると思ったら、突然時代が17年後に飛ぶ。アーティストとして浮き沈みを経験し、活動休止に追いやられるほどのトラブルを経たセレステの、再起をかけたコンサートツアー初日の場面から後半が始まる。というか映画の後半は、ツアー初日の本番とその直前の状況だけを長尺で描いている。大胆な構成だ。
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2020年10月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第151回 三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実

第151回「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」

三島由紀夫作品は遠い昔に有名どころをいくつか読んでいるだけだったし、全共闘についてもどこかで観たドキュメンタリー映像で知った程度の知識しかない。そんな自分でも、思いのほか楽しめた映画だった。
作中繰り広げられる討論そのものは、難解な言葉が多く、正直何を話しているのかよくわからない場面が多かった。それでもまったく退屈しなかったのは、三島と彼の論敵として現れる学生(主に芥正彦)のキャラクターがどちらも立っていたからだ。麻雀マンガや将棋マンガは、ルールがわからなくてもキャラを理解できればそれなりに楽しめるものだけど、この映画もキャラとキャラ同士の作る緊張感が伝われば、問題なく観れると思う。
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2020年9月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第150回 ジョン・F・ドノヴァンの死と生

第150回「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」

若き天才と称賛され続けているグザヴィエ・ドラン監督の新作。9年近く前に『わたしはロランス』が話題になった辺りから、ドラン監督は要チェックだと思っていたのだけど、実は今の今まで一作も観ていなかった。新作が撮られるたび内容や評判を調べたり、アマゾンビデオのウォッチリストにも入れているのに、なかなか手が伸びない。というのも「若き天才」「イケメン」「カンヌの申し子」「LGBTQ」といった各要素が放つ、才能あふれてそう感が眩しすぎたからだ。輝かしい触れこみの圧に、完全に気圧されていた。
予告のエンタメっぽさに惹かれ、今作ようやく重い腰を上げた。「若きスターの死の謎」、自分のような大衆にも普通に楽しめそうだ。
結果的には、「死の謎」は撒き餌のようなものであまり重要でなく、母と息子の関係をテーマにした、監督自身の話とも取れるヒューマンドラマだった。というか、監督はそういう作品ばかり撮っているらしい。
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2020年8月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第148回 ミッドサマー

第148回「ミッドサマー」

悪夢のような家族ドラマ「へレディタリー/継承」のアリ・アスター監督最新作。前作は、正に暗黒映画という印象だったのが、今作は一見真逆。舞台となるスウェーデンの田舎町は白夜で太陽が沈まない。色とりどりの花が咲き、人々は白い服を身にまとい、青空のした幸せそうに歌い踊る。楽園のような場所で、やはりグロテスクな悪夢が繰り広げられるのだ。
アメリカに暮らす主人公の女性ダニーは、妹の無理心中で両親を失い心に深い傷を負う。そんな状況の中、恋人とその友達と共に北欧の奥地で90年に一度開かれる祭りに訪れる。最初は牧歌的で楽しげな雰囲気だったのが、ある凄惨な儀式をきっかけにして、徐々に住民たちの素朴で野蛮な世界観に飲み込まれていく。
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2020年7月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第148回 ミッドサマー

第148回「ミッドサマー」

悪夢のような家族ドラマ「へレディタリー/継承」のアリ・アスター監督最新作。前作は、正に暗黒映画という印象だったのが、今作は一見真逆。舞台となるスウェーデンの田舎町は白夜で太陽が沈まない。色とりどりの花が咲き、人々は白い服を身にまとい、青空のした幸せそうに歌い踊る。楽園のような場所で、やはりグロテスクな悪夢が繰り広げられるのだ。
アメリカに暮らす主人公の女性ダニーは、妹の無理心中で両親を失い心に深い傷を負う。そんな状況の中、恋人とその友達と共に北欧の奥地で90年に一度開かれる祭りに訪れる。最初は牧歌的で楽しげな雰囲気だったのが、ある凄惨な儀式をきっかけにして、徐々に住民たちの素朴で野蛮な世界観に飲み込まれていく。
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2020年6月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第147回 アナと雪の女王2

第147回「アナと雪の女王2」

鑑賞中、「歴史的傑作アナ雪の続編…」ということで自分の中で勝手にハードルを上げたり、「前作が良すぎるからな…」と逆に下げたり、ずっとフワフワしていた。感想をまとめると、「すばらしい映画…かもしれない」という、やはりフワフワした一言になってしまう。
全体を通して気になったのは、所々で難しい説明セリフが出てきたり、ダムがどうとか政治的要素が見え隠れしている部分。「幼児にわかるの?」とちょっと不安を感じた。後から調べたら、どうやらノルウェーの歴史や少数民族であるサーミ族の文化をちゃんと踏まえた上で、物語が作られているらしい。そういった背景やディテールは、作品に深みを与えているが、同時にとっつきにくさも与えていると思った。結果、フワフワした感想になったのかもしれない。
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2020年5月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第147回 ジョジョ・ラビット

第147回「ジョジョ・ラビット」

戦時下のドイツ。主人公は、ナチスを信奉し「想像上の友達」にヒトラーを持つ10歳の少年ジョジョ。自宅にひそかに匿われていたユダヤ人少女との出会いを通じて、彼が内面的に成長していくビルドゥングスロマンだ。
冒頭、ジョジョはユーゲントキャンプ参加のため、ハイテンションで家を飛び出し、資料映像に合わせてビートルズの「抱きしめたい」が軽快に流れる。皮肉の利いたポップなオープニングだ。ジョジョはけっして「悪の子供」ではない。純粋で真面目で、合宿中にウサギも殺せない。純粋だからこそ、国家のプロパガンダをそのまま信じてしまっている。そして父親不在の寂しさを埋めるように空想のヒトラーとたわむれている。一方母親は、国家へのレジスタンス活動に励む聡明で明るい女性だ。ヒトラーに心酔する息子を心配しつつ、自分の活動に巻き込まないよう努めている。彼女は、ジョジョに子供じみたいたずらをしたり、父親の形態模写をしたり、歌ったり踊ったりもする。ジョジョの想像するマンガチックなヒトラーは、国家の宣伝と母親のユーモアが合わさってできたキャラクターなのかもしれない。彼女が自宅でこっそり匿っていたのが、ユダヤ人の少女エルサだ。ジョジョに見つかってしまい、ドラマが動き出す。
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2020年4月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第146回 パラサイト 半地下の家族

第146回「パラサイト 半地下の家族」

カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲った大評判の本作。『万引き家族』、『ジョーカー』、『アス』等、格差や貧困の問題を描いた傑作が次々と作られているが、『パラサイト』もそのひとつだ。カンヌで受賞と聞くと、娯楽作品というより芸術作品の印象が強い。本作は両方をあわせ持った、万人に勧められる一作だ。ポン・ジュノ監督の集大成と呼べるかもしれない。
半地下のアパートに暮らす全員失業中の低所得家族。酔っ払いの立ちションが窓から流れ込みそうになるような劣悪な環境で生活していながら、彼らは皆スマホだけは持っていたりする。近所の家のWi-Fiにただ乗りしていたらパスワードを掛けられてしまい、別のWi-Fiをギリギリ拾うためにトイレの天井辺りまでスマホを持っていかないといけない。現代的な貧困描写だ。この映画は、サスペンスだったりシリアスな人間ドラマだったり色んなジャンルを横断しているが、基本的にはコメディだ。皮肉にあふれ、テンポも良く、長尺でありながら退屈する場面がひとつも無い。
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2020年3月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第145回 ジョーカー

第145回「ジョーカー」

コメディアンを夢見る売れない派遣ピエロのアーサー、彼がいかにして悪のカリスマジョーカーに変貌していくかを描くヴィラン誕生譚だ。アメコミ映画と言えば、『ダークナイト』的な辛気臭い路線が流行らなくなり、MCUの『アベンジャーズ』に代表される陽キャ路線が主流になって久しい。DCEUも今はそっち側に舵を切っている。『ジョーカー』は、そんな現状に強烈なカウンターを食らわせる内向的で重苦しい作品だ。
精神的に病んだ凶悪な犯罪者に、ここまで自分を同一化させられた映画は初めてだった。
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2020年2月1日 [施川ユウキ映画コラム]

施川ユウキ映画コラム「全ての映画は、ながしかく」第144回 ジョン・ウィック:パラベラム

第144回「ジョン・ウィック:パラベラム」

『ジョン・ウィック』シリーズ最新作。前回からの続きになっているけど、ストーリーはあってないようなもので、次々とステージを変えて無双するゲーム動画のようなアクション映画だった。
わらわらと湧いてくる敵を返り討ちにしながらニューヨークをひた走る、冒頭約20分(体感)のシークエンスが最高だった。静かな公立図書館での本を武器にした格闘。本で殴ったり突いたり、分厚い本を口に噛ませ本ごと顔面に掌底を打ち込んだり、とどめは机に立てた本に首を乗せて本を支点に首をへし折るという、読書を愛する自分からすれば「本で何てことしてくれるんだ」と思いながらも、滅茶苦茶楽しんでしまった。その後の、ナイフを互いに延々と投げ合うシーンも過剰で笑ってしまったし、馬に敵を蹴らせ、そのまま乗馬してバイクとチェイスするくだりも見ごたえがある。ジョンがヘトヘトの状態から映画が始まり、途切れない敵の来襲にうんざりしながらも、満身創痍でガンガン殺していくのが不条理劇のようで良い。
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